あなたに花を


 

「イルカせーんせ♥ おたんじょうびオメデトー!」

 弾むような声とともに、頭上に降りかかった無数の小さな花。色とりどりのそれは、萼のところで切り取られていて、イルカのひっつめ髪をひらひらと飾った。
 背後から現われた声の主は、イルカの正面にまわるとうっとりと手を組み己の作品の出来映えを眺めた。
「やーん、かわいい〜♥♥ すっごい似合うー♥」
「………………カカシ先生」
 イルカはばさばさと頭を振り、肩を払い花を落とした。ここがアカデミーの廊下で、その床を汚すことになったなど、何かもうどうでもいい。
「あー! もったいないー」と残念そうに呟くくのいちを、キッと見上げる。
「いろいろと言いたいことはありますが、とりあえずひとつ、よろしいでしょうか」
「はい、何でしょう?」
 にこにこと応える彼女にやや脱力感を覚えつつ。
「わたしの誕生日は、明日です」
 午後のアカデミー、受付所へと続く廊下。遠巻きにこの様子を眺めていた者たちが、あまりの展開にシンとなる。
 だが言われた当人は、きょとんと目を見開くと、
「もちろん、そんなこと知ってるわよ?」
 大事な恋人の誕生日を忘れるわけないじゃない、と平然と続けるカカシを前に、イルカは更に脱力した。
「アンタ、いまさっき何て言いました……?」
「あのね! 今夜アタシんち来ませんか、ってお誘いに来たの♥」
 微妙に噛み合わない問答。疲れる。果てしなく。
 外見だけ見れば、顔よしスタイルよしの極上の美女。忍びとしての実力も超一級。他里のビンゴブックにも載っちゃうスーパーエリート上忍。イルカも含めて、すべてのくのいちの憧れのひと。
 しかし悲しいかな、そんな彼女にも決定的に欠けたものがあった。
 それは『他人の話を聞く耳』と『常識』のふたつである。
 何でわたし、こんなひとと恋人やってるんだろう……とイルカは今日もまた頭を抱えるのだった。
 とにかく、こちらが折れなければ話が進まない。進んでも、互いに平行線どころかどんどん話の内容に開きが出来てしまうのは必至だ。
 仕方なく、イルカはカカシの言葉に問いを返した。
「どうして今日なんですか?」
 カカシの部屋へ行くということは、イコールお泊りである。そしてもちろん、そこには当然のようにセックスがセットで付いてくる。故に平日に誘われることは珍しく、加えて肝心のイルカの誕生日は明日。
 だが、カカシの答は至って判りやすい、シンプルなものだった。
「だって。ベタだけど、やっぱりいちばんにオメデトウって言いたいじゃない?」
 にっこりと笑って、カカシが言う。
 いちばんに祝いたいということなら、先ほどの「オメデトウ」がさいしょだと思うのだが。
 ――――ばかばかしい、と笑い飛ばせない。嬉しい。イルカは赤くなっているだろう顔を隠すように俯いた。
 何だかんだ言っても、イルカだってちゃんとカカシのことを好きなのだ。
 時と場所も弁えず、二人のまわりに花が飛ぶ。というか実際小花が舞っている。
 花の降るなかで見つめあうふたりの女、それも極上美女と受付の天使。まさに目の保養。特に男どもには堪らないツーショットであろう。
 周囲を巻き込んだほんわかとした雰囲気を、しかしカカシが一気にぶち壊した。

「プレゼント代わりって言ったらアレですけど、今夜はいつも以上にサービスしちゃいますからね♥ イルカ先生がアンアン言っちゃうようなスッゴイ道具も用意したし♥♥ あー、楽しみ♪」

 ビシィッ!
 その場に居合わせた者たちは、その瞬間、確かに空気が凍りつく音を聞いたという。

 

 カカシがその後、望みどおりイルカにいちばんさいしょの「オメデトウ」を言えたかどうかは、当のふたり以外の知るところではなかった、が。
 翌日、妙に機嫌のいい上忍と、どこかぐったりとした中忍のくのいちの姿を見かけたとか、見かけなかったとか。
「ああいうのを、バカップルって言うのよ」――――とは、カカシの同僚でありもと情人のひとりでもある、夕日紅上忍の言葉であった。

 

 

――――――end★

 



イルカ先生の生誕祝SS。
み、短い…すみません…。
続き書きかけたんですが、収拾つかなかったもんで…
今年はユリカカイルで書いてみました。
既刊『あこがれのひと』のその後に当たりますが、
まあこれだけでも判ります…よね?
気になる方は本買ってください(はっきり言い過ぎ!)

'05.05.26up


 

 

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