ぼくの名前は虎若。忍術学園一年は組の忍たま。
 今日はお休みで、いま長屋の同室の団蔵を探してるところ。さすがにそろそろ、洗濯でもしようかと思って。
 まったくもう、どこ行ったんだろ?

 

 まず、金吾と喜三太の部屋に行ってみた。
「金吾ー、喜三太、ちょっといい?」
 声をかけながら障子戸を開けると、「しーっ!」と鋭い声が返ってきた。
 見れば、喜三太にひざを貸してる金吾が、立てた人差し指を口元に当てている。
 喜三太は、ペットのナメクジが入った壺を大事そうに抱えたまま、金吾のひざでお昼寝中だった。
「喜三太が起きちゃうから、静かにして。……どーしたんだ虎若?」
「あ、うんごめん。団蔵来なかった?」
「来てないけど……」
 小声でしゃべってると、喜三太がううん、とちいさく唸った。
「……なぁに、金吾ぉ……」
 寝惚けた声に、金吾はにっこり笑って喜三太の頭をそぅっと撫でた。
「なんでもないよ、喜ィくん。もうちょっと寝ておいで」
「……うんー」
 ふにゃ、とちょっと笑って、喜三太はまたすうすうと寝息をたて始めた。それを見つめる金吾は、この上もなく幸せそうな表情。
 ぼくはオジャマシマシタ、と呟いてふたりの部屋を後にした。
 喜ィくん、だって。
 ふたりが仲いいのは知ってたけど。
 ぼくは何となく恥ずかしくなりながら、次の部屋へ向かった。

 

 次に向かったのは、兵太夫と三治郎の部屋。
 ここに入るときは、充分に注意しなきゃいけない。うかつに中に入ると、ふたりの共通の趣味(?)の仕掛けや罠が発動してしまうのだ。
 ちなみに、よく引っかかってるのが事務員の小松田さんで、しょっちゅう保健室のお世話になってるらしい。
 なのでぼくは、声をかけたあと、中から「どうぞ」の返事が戻るまで、戸には手をかけないでいた。
 けれど入ってみれば、室内には険悪なムードが漂っていて……。
「ど、どうしたの?」
「聞いてよ虎若! 兵太夫ったらあんなとこにカラクリなんか作って!」
「何でさ! 三治郎だっておもしろそうだねって言ってたじゃないかっ」
「カラクリはおもしろいけど、あんなとこに作ったら布団出すたびに作動しちゃうじゃない!」
 三治郎の言う『あんなとこ』とは、押入れのすぐ前の床だった……。
 その後そのまま、カラクリについての話でヒートアップするふたりに置いてきぼりにされたぼくは、黙って退散した。

 

 次は乱太郎・きり丸・しんべヱの部屋。
「ねぇ、ちょっといい? 団蔵知らない?」
 言いながら障子戸を開ける。そしてぼくは、ちょっと後悔した。
 中ではゼニ目のきり丸が信じられないスピードで内職を片付けていて、その背中には乱太郎がべったりと抱きついている。この上なく異様な光景。
 ちなみに、しんべヱは部屋の隅でお菓子を食べていた。
「きりちゃーん。きり丸ってばー」
 まったく相手にされてない乱太郎が何度も呼ぶと、きり丸は内職の手を止めないまま嫌そうに、
「邪魔すんなよ乱太郎! この内職けっこうイイ金になるんだからっ」
「だからー、私も手伝ってあげるって言ってるじゃない」
「おまえに借り作ると、ロクなことにならん!」
 どきっぱり。
 きり丸の態度は、まさに取り付く島もない。
 乱太郎はほっぺたを膨らませて、
「もー、こないだのこと根に持ってんの? ちょっと口吸わせてって言っただけなのにー」
 ぶっ!! な・なんてことを!! 乱太郎ってそういうキャラだっけ……?
 とりあえず、ぼくはそれ以上ふたりを見ないフリをして、しんべヱに話しかけた。
「しんべヱ、そのお菓子どうしたの? 美味しそうだね」
「うん、なんかよくわかんないけど、乱太郎がくれたのー」
「え?」
「これあげるから邪魔すんなよって言ってたー」
「…………」
 なけなしのお小遣い使ってまで……(ほろり)。
 ちょっぴりだけ、乱太郎を応援してあげたくなった。
 とにかく、ここに団蔵がいないことは確かで、ぼくはしんべヱにじゃあねといって部屋を出た。

 

 最後に、庄左ヱ門と伊助の部屋だ。
 ……まぁね、最初からここじゃないかなとは思ってたんだけどね。
 障子戸に手をかけようとしたら、中からなにやら争う声。……ああ、やっぱり。そう思いながら耳を傾けてみると。
「だから、ここはぼくらの部屋なんだって言ってるだろ!」
「ちょっとくらいいーじゃないか! たまには譲ってよ!」
「何が『たまに』だよ! 大体団蔵、庄左ヱ門にベタベタしすぎ!」
「それは伊助のほうだろ!!」
 はたで聞いてて恥ずかしいくらいバカバカしい、且つみっともない言い争いだ。
 入ってく気になれなくなって、部屋の前で困ってると、ぴしゃりとふたりを黙らせるツルの一声。
「いい加減にしろよふたりとも! 何で三人で勉強できないんだよっ!」
 ……相変わらず、団蔵と伊助の気持ちに気づいてないんだな、庄左ヱ門……。いっそすごいよ、その鈍さ。
 しかも。
「そんなに三人が嫌なら、ぼくが別のとこ行くよ、それならいいだろ?」
『ちっがーう!!』
 ふたり同時のツッコミ。覗かなくても判る、きょとんとしてるだろう庄左ヱ門の顔が目に浮かぶよ。
「いーから、庄ちゃんはそこで待ってて!」
「そうだよ庄左ヱ門、庄左ヱ門はどこにも行っちゃダメだ!」
「……そ、そうなの……?」
『そうなの!!』
 びしり。団蔵と伊助の声は再び見事にハモった。
 何だけっこう息が合ってるじゃん。
 ぼくは結局団蔵に声をかけないまま、その場を離れた。
 庄左ヱ門は大変だな、と思ってたけど、どうやら大変なのはふたりのほうみたい。

 

 もうしょうがないけど、ひとりで洗濯はヤなので、次の機会にすることにしよう。
 こーやって先延ばしにするのが悪いってのは、判ってるんだけどね。
 そう思いながら廊下を歩いてると、山田先生と行き会った。
「あ、山田先生、こんにちはー」
「おお、虎若か。ちょうどいい、明日の授業は火縄銃の実習だぞ!」
「ほんとですかっ!?」
 わーい、久しぶりだぁ。火縄銃に触れるなんて♪
 るるるん、と足取りも軽く、気づけば先生方の部屋の前。
 通りすがった山田先生と土井先生の部屋に、人影がふたつ。
 ――――あれぇ? さっき山田先生と行き会ったよね? 山田先生、ぼくが来た方向に歩いてったけど……。
 首を捻りながら、それでもやっぱり明日のことを考えると嬉しくて、ぼくはまたスキップを始めた。
 チラッと、目の端っこに、ふたつの影が一瞬重なったのが見えた気がしたけど。

 

 ま、いっか。

 

 



欲張りSSぱーと2。
金喜、べったべった甘々。お昼寝喜ィちゃんが書きたくて(^^ゞ
兵三兵、CPというか何と言うか。仲良しなのは確か。
乱きり+しん、やっぱり乱太郎が何気に黒くてスミマセン…。口吸わせてって…(汗)
団庄+伊、てゆーか団VS伊&庄?(笑)お鈍な庄ちゃんLOVE!!
そして、匂わせる程度に利土井(なんですよ!)オチ。
ついでに判りにくくコマ伊もあったり(笑)
虎ちゃんはやっぱりCP浮かばないなぁ…虎×鉄砲とか?(すごく違う)
'04.10.24up


 

 

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