たいせつなひとが いました。
 だけどもう、なにも思い出せないのです。

 

 そのひとを想って 泣いたことも、
 小さなボタンを握り締めて ねむったことも、
 もう どこか とおい世界のことのようで、
 なにが哀しかったのか、それさえも判らなくなってしまいました。

 

 たからもののようにずっと身に着けているこのボタンは、
 どこにでもあるような ただのちいさなボタンです。
 きっと そのひとのもちものだったのでしょう。
 忍びは なにものこしてゆけないから、
 こんなものが たったひとつ、のこされたものだったのでしょう。

 だけど いまは、それをみても なにも感じません。

 

 あたりまえの生活を、あたりまえにすごしています。
 なのにまわりは、俺のことを とこか痛ましそうに見るのです。
 卒業してからほとんど会うことも稀になっていた子供たちが、
 ことあるごとに俺の元を訪れます。

 ナルトは特に、毎日のようにやってきては「大丈夫?」などとききます。
 あのサスケまでもが、気遣わしげに「先生」と呼ぶのです。

 俺は、わらっているのに。

 

 ああ、もう、つかれました。
 あしたも仕事はあって。
 アカデミーでは、子供たちが待っています。

 はやく ねむってしまわなければ。

 手をのばし、たぐりよせたのは黒く光るクナイ。
 切っ先をピタリと首筋におしあてて、
 俺は久し振りに、心から わらいました。

 いまでは 名前さえ思い出せないそのひとを想って、
 目を とじる。

 

 おやすみなさい。

 

 



薄ら暗くてスミマセン。
…や、薄くないですね、キッパリ『暗い』
クリスマス頃に浮かんだネタなのですが、
さすがに聖なる夜にこんな根暗いポエムをUPするのはどうかと。
てか、こういうのが仕事中に浮かぶのはいかがなものか(死)
'04.01.04up


 

 

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