わたしを殺さないで




 そもそも、イルカのほうから告白して始まった関係だった。
「俺も、好きですよ」
 にこりと笑って応えてくれた、カカシのその言葉を素直に信じていられたなら良かった。

 

 少しずつ近づいて、唇を重ね、肌を重ねて。
 彼のやさしさは変わらない。
 なのに。

 

 最近、イルカに過去のことをぽつぽつと語ってくれるようになった。その登場人物は、あまりに少なかったけれど。

 父。――――木ノ葉の白い牙と呼ばれた、高名な忍びであった彼のことは、イルカも知っている。一時はいろいろと複雑な思いもあったようだが、いまでは彼を父に持ったことを誇りに思っていると、カカシは笑った。

 先生。――――ナルトのなかに九尾を封印して死んだ、四代目火影のことだろう。彼を語るとき、カカシはとても穏やかな表情をしている。火影としてだけでなく、師としても素晴らしいひとだったようだ。

 うちはオビト。――――カカシに写輪眼を贈り死んでいったという、かつての親友。彼については、いまも消えない後悔と罪悪の念が窺える。

 そして ――――リン。

 彼女の名をくちにするたび、カカシはどこか切なげな表情をする。
 カカシの初恋の少女。
 そして多分、いまでもカカシのなかに存在し続けているひとだ。

 

 本当ならば、そんなことを話してくれるほどに大切にされているのだと、特別な存在なのだと喜ぶべきかもしれない。
 だが、こんな話ならば聞きたくなかった。

 

「付き合ったりはしなかったんですか」
 問えば、カカシは「まさか」と笑って。
「確かにリンも、俺を想ってくれてはいたみたいですけどね。お互いに、ムリでしょ。リンはオビトの想い人だった。間にオビトの存在があって、何もなかった顔して付き合えないですよ」
 きっと、だからこそ余計に、忘れられない相手なのだろう。
 イルカを好きだと言ってくれた。その言葉には多分、嘘はない。
 けれどふとした瞬間に、嫌でも感じ取れてしまう。時折彼の目が、イルカをすり抜けてずっと遠くを見つめていることに。

 

 カカシの愛した女性。もしも彼女が生きていて、そしていちどでも男女の付き合いを持っていたなら。
 カカシはこんなふうに彼女を想い続けてはいなかったかもしれない。

 

 夜毎、カカシのベッドの傍に並べられた写真立てが視界の端に映るたび、イルカは狂いそうな嫉妬に胸を掻き毟る。
 抱き合っていても心は冷たいまま。昂ぶる身体に置き去りにされる。

 

 誰を想いながら、俺を抱いているの。

 

 くちに出せない問いが、胸のなかで腐敗していく。カカシを愛するココロが、ひとつずつ死んでゆく。
 できるものなら、カカシのなかの彼女ごと、カカシをこの手にかけてしまいたい。
 その腕に抱かれながら静かに涙を流すイルカを、カカシはそっと包み込んでくれる。優しく微笑んで、「大丈夫」と囁いてくれる。
 大丈夫なわけがない、こんなに苦しい。それでもその言葉に、イルカはただうなずく。

 

 優しい抱擁。
 優しいくちづけ。
 優しい微笑み。
 優しい言葉。
 ズタズタに引き裂かれる、ココロ。

 

 ああ、どうかこれ以上。

 

 

 彼女を想ったまま、俺をころさないで。

 

 

 

 



タイトルは谷山浩子。好きなんですよ(^^ゞ
6月のカカイルオンリーで出そうと考えたネタ。
でもあまりに投げっぱなしなため、別の話に切り替えました。
本にするなら、カカシsideのフォロー編も必要だったかな。
…ちゃんとカカイルですよ。カカシはイルカをホントに愛してます!
でもリンを忘れられないのもホント。
オビトを絡めるより、リンちゃんとの切なくすれ違った初恋を書きたかったのです。
女の子大好き♥(もうみんな判ってるって/苦笑)
でも勝手に殺しちゃってゴメンねリンちゃん…。
(つーか、彼女が生きてるかは謎のままですか岸本先生!?)
'05.08.29up


 

 

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