FRUSTRATION




 出逢ったばかりの頃よりは、近づいていると思いたい、のだけれど。
 じゃれついている小猿と、馴れ馴れしく肩を抱いては叩き払われているエロ河童を見遣って、八戒は思わず溜め息をついた。
 そーゆー関係になってしまった所為で、逆に人前では指先さえ触れることができなくなった。
 八戒の意思では、もちろんない。本当は今すぐにでも猿や河童を引き剥がして、愛しいひとをこの腕に抱き締めたいと思っているくらいなのだから。
 だが、だからこそ不用意に触れて、歯止めが利かなくなるのが怖い……と言うこともある。何しろ、もう二週間近く、彼を抱いてないのだ。
 はっきり言って、限界なんかとっくに超えている。
 特にこの二、三日ほどは、どういう訳か三蔵のご機嫌が激しく斜めで、近づくこともままならなかった。
 今日も朝っぱらから、石に躓いてよろけた彼を支えた途端、思いっきり振り払われてしまったばかりなのだ。
 それからは、口もきいてくれていない。
 かと言ってこちらからも、気まずくて声を掛け辛い。もう一度拒まれたら、きっと立ち直れないだろうから。
 こんなことは今までなかった。どうして良いか判らず、八戒は途方にくれて、ただ彼のご機嫌が治るのを待つしかなかった。


「なーんで八戒と話してやんないのよ、三蔵サマ」
 八戒が夕食の準備を始めた頃、三蔵が座り込んでいる背後の木に上半身を預けながら、悟浄が軽い口調で訊いた。
 三蔵は答えず、袂から取り出した煙草を口に咥える。それを見た悟浄は屈み込んでライターを差し出してやった。
 当然のように火を貰う三蔵から、たまには礼の一言でも聞きたいと思うのは、多分間違っているのだろう。
「かわいそーにさぁ、今日一日アイツ、お前に近寄れもしねーじゃん。おかげで俺ら、お前と話すだけで時々すっごい眼で睨まれちゃうの、判る?」
「……だったらテメーも俺の傍に寄んじゃねーよ」
 三蔵は悟浄をちらりとも見ようとせずに言い放った。
「あらら、ホントにご機嫌ナナメなのね」
 おどけた言葉に、もはや返事も返ってこない。
 ――あーあ、重症だねー、こりゃ。
 悟浄から見たら、三蔵の不機嫌が何の裏返しであるかなど、思いっきりバレバレだったが。
「そろそろさぁ、町が恋しくねぇ? 早くふかふかのベッドで、キレーなオネーチャンと寝た―い♥」
「エロ河童が」
「何日シテないと思ってんだよ。そのうち狂うよ俺、マジで」
 一瞬顔を上げて睨みつけ、吐き捨てるように言った三蔵の隣に座り込み、悟浄はそうぼやいた。
 そして、そっと顔を寄せ、
「……アンタはそうなんない?」
 囁くような言葉と共に、項にかかる三蔵の長めの髪を、撫でるようにかき上げる。
 次の瞬間、その手は物凄い勢いで振り払われ、眉間に銃を突きつけられていた。
「何してるんですかッ、三蔵っ!」
 食事の準備が整ったことを知らせに来た八戒が、目に飛び込んできた光景に驚いて声を上げる。
 瞬間、三蔵の身体が大袈裟なまでに震えたのを、悟浄が見逃すはずもなく。
「八戒」
 ひょいっと、三蔵の腕を掴んで退けさせて。
「責任、とってやれよ」
 意味が判らずにいる八戒の方へ、その身体を押しやった。
 思いがけないほど簡単に八戒の胸に収まってしまった三蔵の顔は、真っ赤に染まっている。
「猿の面倒は見といてやるよ」
 貸しひとつな、とどちらにともなく声をかけて、悟浄は既に食事を始めているだろう悟空の元へと歩いていった。
「えー…三蔵?」
「……んだよ」
「…………触っても、良いですか」
「ヒトの身体しっかり抱き込んどいて、今更何言ってやがる」
 躊躇いがちに許可を求める八戒に、三蔵は何だか急に色んなことが馬鹿らしく思えてきた。
 何にせよ、この腕を拒む理由などもうここにはないのだから。
「早く……済ませろ」
 ぎゅっ…と、背中に回した腕に少しだけ力を込めて。
 三蔵は口付けを強請るように、そっと瞼を伏せた。






タイトルまんま、欲求不満…(最悪。)
うちの三蔵は、本来ストイックで不感症なのですが。
たまにはね〜、とか思って書いてた気が(死)
ちょっかいを出す悟浄、も書きたかったし。
でもこれってセクハラ…(爆)






モドル