花売り
〜6〜



 シャワーを浴びに行こうとしたら、腕を取られてキスされた。
「……すんなっつったろ」
「ダメだよ。私はしたいんだから」
 お客の望みは叶えるべきだろう? そう言われては、プロ意識を問われている気がして拒めない。ゾロはため息をついて、慣れないしぐさでキスに応えた。
 舌の感触がたまらない。不快なのか快いのか判らなくて、でもただ背がぞわぞわする。このキスが巧みであるかなどゾロに測る術はないが、赤髪と交わしたことのあるそれとは違う気がした。
 舌先が痺れるようになってようやく、唇が解放される。唾液が伝う口元を拭うと、男は小さく笑った。
「ったく、ベロベロ舐めまわすんじゃねェよ」
 弾んだ息を整えつつ文句を言ってやれば、それは困ったね、と男が笑いながら首を傾げて見せた。
「このあと、君の全身をくまなく舐めまわそうと思っているのに」
「……!!」
 臆面もなくいやらしげなことを宣言され、ゾロはかっと赤くなった。
「このド変態!!」
 思わず怒鳴り、手に持っていたものを男に投げつけてバスルームへ飛び込む。音を立てて閉じたドアの向こうで、男が声を上げて笑っているのが聞こえた。
 ゾロは服を乱暴に脱ぎ散らかし、浴室に入った。軽く汗を流しさっぱりして出たところで、男にぶつけたのがバスタオルだったことに気付く。
 男がクスクスと笑いながら、ドアをノックしてきた。
「着替えもタオルも持たずに、そこに籠城する気かい? 出ておいでゾロ、そのままでは風邪を引くよ。私が身体を拭いてあげよう」
「要らねェ! タオルだけ寄越せッ」
「恥ずかしがり屋だね」
「……っんなんじゃねェ! てめェが、変態くせェことばっか言うから……ッ!」
 カッとなって、ゾロは濡れた身体のまま自棄気味にバスルームを出た。
 すると、待ち構えていた男が、両手を広げてゾロを抱きとめた。ゾロが焦って藻掻く。
「馬鹿っ、服濡れる……っ」
「どうせすぐ脱ぐよ」
 ああ、と溜め息のような声を上げて、男がますます抱く腕に力を込める。

「一分一秒も惜しい。早く君を抱きたくてたまらない……あまり焦らさないでくれ」

 熱っぽい囁き。何故? とゾロは思う。
 この男ならば、相手に不自由はしないだろう。眉は奇妙だが、整った顔をしている。細身の身体は、しかし服を脱いでしまえばそれなりに鍛えられたきれいな筋肉が着いているし、セックスはすぎるほど丁寧。おまけに金持ちである。どんな女も、男も、手に入れるのは容易いはずだ。
 それなのにこの男は、ゾロがいいと言うのだ。ストリートで身体を売って生活しているような淫売を。
 この男にそうまで思わせるような出会いとは、一体どんなものだったのだろう――?
 ストレートに想いを表す男に、段々と絆されつつある己を自覚しながらも、男の背に手をまわすことを躊躇わずにはいられないのだった。

 

 

 バスルームに再度押し戻される。
 男がスーツを脱ぎながらゾロを浴室に連れ込み、そこで熱いシャワーを浴びながら抱かれた。
 何度も名を呼ぶ声が、降り注ぐ湯の音にも掻き消されることなく届く。ゾロ、ゾロ、ゾロ、と。
 昨夜のような執拗さはなく、ただ貪られている感覚は強くあった。宣言どおり、全身にキスをされた。壁に手をつかされ、突き出すようにさせられた尻も、その奥のすぼまりにさえも。
「や……き、汚な……っっ」
「ダメ」
 腰を引き逃れようとするが許されず、ゾロはシャワーにかすむ目から湯とも涙ともつかぬ雫を流した。開きっぱなしの口からは、ひっきりなしに甘い声と熱い息が零れている。
「愛しているよゾロ、ゾロ、君だけだ、君だけ」
 囁く声が切なく響いて、ゾロはぶるりと身を震わせた。引きずられる、と思う。この男の想いに、言葉に、身体に、すべてに。おかしくなる、自分でなくなる。
「あ、あ、もぅ、も……やあっ」
 ぬるりと舌が内に滑り込んで、その温かく柔らかなものが体内を撫でまわすような感触に、ゾロが悲鳴じみた喘ぎを洩らす。こんなふうに声を上げるなんて――制御できなくなるなんて、そんなこと今までなかった。
 ダメだ、この男はヤバい。今のゾロは、仕事をしていない。ただ愛され、快感に啼くしかできない。
「――っ名前ぐらい……っ名乗れよ! てめェばっか……っ」
 後ろ手に男の髪を掴んで訴えると、男はようやくゾロの尻に埋めていた顔を上げた。代わりに指をそこへ差し入れながら、ゾロを後ろから抱き締める。
「……本当なら、それも思い出してほしいんだけどね……。私も、君に名を呼んでほしい」
 イくときに、私を呼んでくれ。そんな言葉とともに、耳元で告げられた名。
「……ああッ……!」
 男の性器が、ゾロの中に挿入ってくる。深々と貫かれ、ゾロは大きく背を跳ねさせた。
 先にじっくりと愛され充血していた胸の飾りを弄られ、すでに何度か達し、今また極まりつつある性器を扱き上げられる。
「ゾロ、ゾロ、私の……っ」
 男が上ずった声で呼ぶ。ああ、とゾロが鳴く。
 壁のタイルに立てた爪が、きりりと音を立てる。


「…………ジ……っ!」


 ゾロが男の望みどおりその名を呼んで果て、男もまた追うようにゾロの最奥へと精を注ぎこんだ。

 

 

 

 

      ――――NEXT

 



エロですね。
エロです(笑)
なぜかノリノリでエロ…おかしいな、朝チュン的展開になるはずが(死)
どう考えても、1/2話分くらいは延びた(>_<)
サンジさんの名前。
次回でてきます。笑わないように注意(苦笑)
ちょっと、悩んでるんですよねまだ。
ぶっちゃけ、自分で設定が恥ずかしくなってきた(汗)
あーでもちゃんと向き合わないとね…恥ずかしい自分に(そこ?)
'10.02.08up


 

 

※ウィンドウを閉じてお戻りください※