EXTRA VERSIONxx
昔っから、手に入らないものばかり欲しがっていた気がする。
俺の髪や瞳の色を、最初に血の色だと言った女(ひと)。
その女の愛情が欲しくて、必死になってた俺。いつか、俺を見てくれる――そんなことがある訳ないと知ってて、それでも俺はずっと、どこかで期待していた。そう、あの女の手に、光る凶器を見たその瞬間さえ。
ねぇ、母さん。
このまま俺が貴女に殺されたら、少しは俺を愛してくれる?
俺の為に、一粒でも涙を零してくれる?
バカなことだと判っていた。
けど俺は、その為になら死んでも良いと――本気で思ってたんだ。
まぁ、実際は見ての通り、俺は死ななくて。
ずっと――この髪と瞳の紅は、あの女の流した血の色だと――永遠にそれに縛られて生きていくのだと。
それで良いと、思ってた。
なのに――――
「この世で紅い物は血だけだと、本気で思ってんのか?」
血以外の紅い物。
燃えているようだと言ったのは猿。
じゃあ、お前は?
お前の瞳には、俺の『紅』は――俺は、どう映っている?
なぁ、三蔵。
俺はお前の『何』になれる―――?
何でこうなってんだ?
いや、それを俺が思うのはおかしいのかもしれない。
訊きたいのは、きっと、俺の下に押さえ込まれてキツイ眼で俺を睨みつけているコイツの方だろう。
今手を離そうモンなら、問答無用で撃ち殺されそうだ。そう思って、ふと苦笑が漏れる。
「―――オイ」
怒りを抑えた、地を這うような低音。おっかないんだけど、何故か背筋にぞくりと走るものがあった。
「今なら冗談で済ませてやる。とっとと退け」
こんな状態なのに、その口から出るのはあくまで尊大な命令形。
おコトバに甘えてしまいたい気持ちもあったが、今更引っ込みがつかないってのが本音だ。
俺は無言で、三蔵の上に覆い被さるように身を屈めた。
触れそうなほど顔を近づけても、紫の瞳は揺らぐことなく、俺を睨みつけてくる。
俺は唇を避け、冷たいその首筋に吸い付いた。触れている肌が、粟立つ。
鳥肌を立てて拒絶の意思を露にするその潔癖さが、あまりにらしくて笑いたくなる。今、ここにいるのは、間違いなく『三蔵』なのだと――
「ねェ――アイツはどんなふーにするの?」
何を言われているのか判らない、という表情。とぼけてンの? それともマジ?
「アイツと、シテんでしょ?」
俺を睨む眼が、キツくなる。
そんな眼されたら、ますます止まんなくなっちまうだろ。
「アイツのことだから、"アイシテル"とか言っちゃったりするワケ?」
紫の光を、直視できない。
からかう口調に、苦さが滲んでしまわないように。
「ねえ、教えてよ。お前のイイように、シテやるからさ」
キツイ眼は変わらない。
アイツにはそんな眼、向けないんだろ?――これは『嫉妬』なんて、そんな甘ったるい感情じゃない。
延ばす手が、らしくもなく震えそうになるのを抑える。
――もっと嫌がって、暴れて、マジで拒んでくれれば。
そうしたら、笑って冗談で終わらせてやれたかもしれないのに。
ただ、最後に奪った唇が、痛みを残して。
「悟浄? どこか出かけるんですか」
部屋を出た俺を、カップを乗せた盆を持った八戒が、呼び止めた。
二つのそれは、多分、俺と三蔵の為に用意されたもの。
「――これから、俺、街では別行動取るから」
微かな声も漏らさず、抵抗しない代わりに最後まで俺を受け入れなかった三蔵。
「それとも、溜まったらまたお前が俺の相手、してくれる?」
笑いながら手を延ばすと、触れる前に思い切り叩き払われた。
――だけど、マジだって言っちまったら、このままでいられないだろ?
全部タチの悪い冗談にしてしまうしか、それしかないじゃん?
俺を殺したい?
良いぜ、殺せよ。止まんなくなる前にさ。
お前が欲しくて欲しくて、冗談にさえ出来なくなるその前に――――コロシてよ。
答えずに、すれ違う瞬間。
俺は手を延ばし、八戒の頭を引き寄せて唇を塞いだ。
見開かれる緑の瞳。ただ、驚きのみを映して。
苦い笑いが漏れる。
「――やっぱ、返しとくわ」
聞こえるか聞こえないかの声で呟くと、引き寄せた身体を軽く突き放して。
背中越しに片手を上げて見せ、俺はそのまま宿を出た。
謝罪の言葉など口にしない。この罪悪感は、ただ俺だけが背負っていかなければならないものだ。
知ったら、八戒は俺を許そうとして苦しむ――許せる筈もないのに、きっと。
だからせめて、たった一度だけ触れたぬくもりを、その痕跡もすべて消し去ってしまう為に。
それで、裏切った事実までが無くなる訳じゃないけれど――それでも。
それでも、俺は――――
まだこの場所を、失いたくないんだ。
限定発行の本から、前サイトで一週間だけUPしてました。
浄三、浄三〜♪とか思ったものの、
結局八三しか書けないのだと思い知っただけでした(死)
というか、うちの悟浄って微妙なんですよね〜。
えっちナシなら浄→八、てのもイけます多分(やんな。)
て、ちゅーしてるがな!
モドル