独占欲とアルコォル。




 三蔵が、観世音菩薩の解呪の失敗により女性化されてから、一ヶ月が過ぎていた。
 とは言え、一行は相変わらずで――悟浄辺りは隙を見て三蔵を口説こうとしているが、八戒が目を光らせているのでままならないようだ――、今夜も食後の一杯、などと言うものを楽しんでいた。もちろん、一杯で済む訳はないが。
 しばらく、大して意味のない会話を交わしながら飲んでいたが、ふと八戒が三蔵の異変に気付いた。
「三蔵、飲みすぎじゃないですか?」
 しかし、三蔵の前に転がっているビールの空缶は三本。到底「飲みすぎ」と言えるような量ではない――そう、普通ならば。
 八戒の言葉に不満気に睨みつける紫暗はしっかり潤んでいて、肌は上気して肌蹴た豊かな胸元まで桜色に染まっている。
 色香漂う風情に、男どもは思わず息を飲んだ。目に毒――いや、目の保養と言うべきだろうか。
 真っ先に我に返ったのは八戒だった。これではまるで「襲って下さい」とでも言っているようなものだ。酒が入って自制が利きにくくなっている今、特に悟浄の傍になんてこれ以上置いておく訳にはいかない。
「さぁ、三蔵。もう部屋に戻った方がいいですよ・・・僕らももうお開きにしますから」
 ね、と微笑まれ、三蔵は渋々それに従おうとする。
 が、何を思ったかいきなり八戒の服の袖を掴んで引っ張った。見上げてくる瞳は無防備な子供のようで、思わずどきりとする。
「どうしました? 三蔵」
「・・・・・・ねぇ」
「え?」
 聞き取れなくて、仕方なく屈み込んで耳を傾ける。
「立てねえ」
 憮然と繰り返された言葉に、八戒は固まった。――それは自分に、「運んでいけ」と言うことだろうか。
 その疑問を肯定するように、無造作に差し延べられる、両腕。
「なになに、三蔵チャン立てないの? 俺がベッドまで運んだげよっかー?」
 嬉しそうに駆け寄ってきた悟浄を、とりあえず気孔で容赦なくブッ飛ばしておいて。
 心配げな悟空に頷いて見せ、覚悟を決めてその手を取った。
 抱き上げた三蔵の身体は、脱力しているとは思えないほど軽く、柔らかくて。八戒は抱き潰してしまわないよう、かなり気を遣わなくてはならなかったが。
 元に戻るまで、もう三蔵にあまり飲ませないようにしよう、と固く心に誓う。




 ――だって、こんな無防備な三蔵、他の人になんか見せたくないじゃないですか?






超短編、で始めたので短いですね。
三蔵チャン、とは観音様が解呪に失敗して、
巻き添え食った三蔵様が女性化してしまう、というアホな設定です。
既刊「変化的娘娘」の番外…みたいな感じ?
在庫は、2だけあります。
2で戻っちゃったんですけどね(^_^;)






モドル