COLORS



 あれは、憧れの王子様とカレカノになって初めてのクリスマスを控えた、11月中旬ごろのこと。
 彼のバースデーでもあるその日に、ちょっとベタかなと思いつつマフラーを編んでプレゼントしようと、あたしは張り切っていた。
 びっくりさせたかったから、そのことはナイショにして、毛糸の色を決めるために彼に訊いた。
「ねェねェ、リョーマ様! リョーマ様の好きな色って、何色?」
 そうしたら、彼――リョーマ様はあたしのほうをチラッとだけ見て、またすぐに手元のテニスラケットのガットを点検し始めた。
 テニスのこととなると他が見えなくなるひとだから、あたしの質問はそのまま無視されちゃうんだろうな、と思った。
 まぁいいわ。今は真剣な表情のリョーマ様を堪能して、また後で訊きなおそうっと。
 ――と、思ったら。

「……薄いピンク」

 ぽつん、とリョーマ様が言った。
 返事をくれたのは嬉しいけど、……ピンク? ちょっと、ううんメチャメチャ意外な色ね。
 メモに、”ピンク”と書いた。そうしたら、あ、やっぱり、とリョーマ様。

「明るいオレンジ、かな」

 これまた意外。暖色系が好きなのかな?
 いつもブルー系の服とか着てるから、当然ブルー系だと思ったのに。
 あたしはメモの”ピンク”を二重線で消して、”オレンジ”と書いた。そしたらまた、あーでも、とリョーマ様。
 リョーマ様ったら、こんな優柔不断なタイプだったっけ?
 そして、リョーマ様が次に挙げたのは、白、だった。
「白?」
「うん。……黒よりは、シンプルに白、かな」
 あたしはメモの”オレンジ”にも二重線を引き、”白”と書いて二重丸で囲った。よし、じゃあさっそく白い毛糸を……。

 ふっ、と。

 ラケットに落とされたままだったリョーマ様の視線が、あたしのほうを向いた。
 まっすぐな目に見つめられて、思わずぽうっとしてたら。

「……ついでに。デザインは、セクシー系より可愛い系が好み」

 セクシー系? 可愛い系??
 デザイン、と言われて一瞬、マフラー計画(?)のことがバレたのかと思ったけど、マフラーにセクシー系とかないわよね。

「……何の話?」

 訊いたあたしに、リョーマ様はニッ、と笑って手を伸ばしてきた。
 首の後ろを押さえられて、引き寄せられて。
 キスされるのかと目を瞑ったら、リョーマ様はあたしの耳に唇を寄せてからかうような声で囁いた。

「勝負下着の色の話、じゃないの?」

 

 

「リョーマ様のえっち!!!」

 

 

 あのあと、あんまり腹が立ったから、あたしは真っ赤な毛糸で編んだマフラーをプレゼントしてやった。
 けど、これが意外にもすっごく似合って。
 リョーマ様も、へえいいじゃん、なんて言ってくれて。
 結局、すごーく甘々なイブ&バースデーを過ごせて、しあわせだったっけ。
 ただし、あたしが桜乃にも色違いの――桜乃のはパステルピンクの毛糸だ――マフラーを編んであげた、と言ったらリョーマ様はなんだかムッとしちゃって。
 それじゃ俺と竜崎がペアみたいじゃん、と言われて、あたしは焦った。
 名前も教えてもらってないけど、桜乃の好きなひと、に誤解されてるんじゃないかって。
 でも桜乃は笑って、そういうの気にするひとじゃないから大丈夫、って言ってくれた。
 そして、でもリョーマくんも嫌だろうから学校で使うのはやめるね、って言って、あたしとふたりで出かけるときだけ着けてくれるようになった。
 ホンット、何ていい子なのかしら、桜乃ったら!
 リョーマ様ったら、どうして桜乃のこと嫌がるのかな。こんなに可愛くて、いい子なのに。

 

 そこまで思い出して、あたしはちいさく笑って。
 すぐにまた、真剣な目を手元に落とした。
 あたしの手元には、真っ白い、デザイン違いの下着が二種。
 まさか、あんな冗談を参考にしてこんなものを選ぶ日が来るなんて……。

「リョーマ、どっちのが好みかなァ?」

 もう30分以上も下着とにらめっこしてるあたしを、店員さんと桜乃が、呆れたように見ていた。

 

 

おわり

 



久々のリョ朋です!
初夜以前のお話。つか、初夜ネタを書きかけてどこかに放置してる…。
最初、甘々リョ朋を考えて、詰まって、次に桜→朋を考えたのですが、
桜乃がブラックモード全開な上、シリアスになってしまったため、
&王子が欠片も登場しなくなってしまったため、やめました…orz
ちなみに、王子はからかい口調でしたが至って大マジです。
好きな色、は全部朋ちゃんに似合いそうな色、を挙げてたんです。
明るいオレンジは、明るいけど淡い色で。
あと、王子が桜乃を嫌がるのはもちろん、恋敵だからですよ!(笑)
あーでも、やっぱリョ朋はイイ。大好きです…!!
'08.02.11up


 

 

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