おいしい約束



 サンジは全速力で走っていた。その手には、ビニル袋を大事そうに抱えている。
 小学校が終わって、大急ぎで帰って、すぐにとりかかった。準備はしてあったから、間に合うはずだ。
 大事に抱え込んだ袋の中には、カップケーキがふたつ入っている。抹茶を使った緑のと、かぼちゃを使った黄色いの、ひとつずつだ。
 本当は、ちゃんとラッピングもしたかったのだが、それをしていると間に合わなくなってしまいそうだったので断念したのだ。
 向かう先は、掃除が終わるのと同時に飛び出してきた小学校、の隣にある剣道場。
 そこに、サンジの大好きな剣士がいる。


「ゾロ!!」


 靴を蹴飛ばす勢いで脱ぎ捨て、道場に飛び込む。しんとした道場の中央、木刀を構えた剣士がふっと『気』を緩めた。
 バタバタと裸足で駆け寄っていき、白い胴着の胸元へ飛び付いた。
「おい、汗臭ェからくっつくなって」
 サンジの大好きな剣士・ゾロは、いきなりタックルをかけられてもよろけもせず、慣れた様子でサンジを受け止めて。
 笑いながら大きな手でサンジの頭を撫でてくれた。
「どうした、今日は遅かったな」
「うん、あのな」
 サンジはゾロから離れ、ビニル袋を差し出した。
「? 俺にか?」
 ゾロは袋を受け取り、きょとんと眼を瞬いた。その表情が、サンジより十も年上だなんて思えないくらいかわいい。
 開けてみてくれよ、サンジはぴょこぴょこと跳ねながら期待に目を輝かせ言う。
 言われるままビニル袋を開けたゾロが、へえっと感嘆の声を上げる。
「たんじょうびおめでとう! ゾロ!!」
「……ありがとう。すげェな、お前が作ったんだろこれ?」
「こんなのクソかんたんだぜ」
 褒められてくすぐったそうに笑いつつも、サンジは胸を張って見せた。
 ゾロは、取り出したカップケーキを見てまた感心している。
 本当はもっとたくさん作ったのだ。そのたくさんの中から、いちばんきれいに膨らんだのを選んだ。残ったものは明日、大食らいのクラスメートにでもやろうと思っている。

「お前と、俺だな」

 にっこり笑って、ゾロが言う。
 黄色がサンジの色で、緑がゾロだと。
 半分ずつ食うか、と座り込んでさっそくケーキにかぶりつく。大きな口で、半分くらい。そうして、残った半分をサンジに差し出してくる。
 サンジも隣に座り、ケーキを受け取った。
 色のことに、言わないでもゾロが気づいてくれた。そのことが嬉しくて。
 へへへ、と照れ笑いを浮かべながら包みを剥がして食べる。
「美味ェ。お前、チビなのにすげェな」
「あったりまえだろ。おれは、世界一のパティシエになるんだからな!」
 そりゃすげェ、とゾロが声を上げて笑う。バカにしているのではないのが判ったから、店の連中に笑われた時みたいに腹は立たなかった。
「そんで、ゾロがおれのきゃく第一号なんだぜ」
「光栄だな」
「だから、さ」
 サンジはもじもじとし、それから思い切ったようにゾロを見上げて言った。

「どうせ、クリスマスにもデートするあいてがいないゾロのために、おれ、こんどはでっかいケーキを焼いてやるな!」

 このくらい、と両手を広げて見せるのに、ゾロは苦笑し、「ふたりで食いきれるサイズにしてくれよ」とサンジの手を取った。
 このくらいで、と両手の幅を少し小さくする。
 さりげなく――のつもり――誘ったクリスマスの約束を否定されなかったことで、サンジは嬉しくなってまたゾロに抱きついた。
 木の形のやつと白いクリームのとどっちがいい、と訊くと、ゾロはクリームの、と答えた。
 雪みたいに白いクリームをたっぷり乗せた、ゾロのためのケーキ。それをふたりで食べることを想像するだけで、わくわくする。



 明日から、クリスマスケーキの特訓だ。

 

 

 

 

      ――――END

 



ゾロたん、ハッピーバースデー!!
健全ぶってて我ながら笑える。超短いし。
チビナス×ゾロ。
小学生×高校生。
こんなんも一度くらいは書いてみようかな〜と思って。
異常にお兄ちゃんぶってて、優しすぎるゾロがポイント(え)
シリーズっぽい書き方になっちゃった気もしますが、
(つか出会い編とかがありそうな雰囲気ですが)
チビナスを書くことはもうないかもです。
苦手なんだよ、チビナス…(苦)
'09.11.11up


 

 

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