あなたのもの



「今日が何の日か知ってる?」

 そんなふうに訊かれて、俺は眉を寄せてサンジを見上げた。
 相変わらずの穏やかな笑顔、相変わらずのグルグル眉毛。前髪で隠れてないほうの目が、心なしか期待に輝いて見える。いい年こいて、ガキみてェだ。
 実は、それについては昨日、ナミに教えられたばかりだった。
『サーのことだから、明日は休みを取ってあんたと一日中一緒に過ごすとか計画してんじゃない? まァせいぜいサービスして、機嫌取っておいてちょうだい。落ちこんでるサーって、心底うざいから』
 にこにこ笑いながら辛辣なことを言うナミに、女は怖ェなと改めて思ったのだ。ナミだけかもしれないが、ロビンだってある意味相当怖い女だしな。
 俺はじっとサンジを見た。
「……てか。祝われて嬉しい年か? オッサン」
 呆れたふうにため息混じりに言ってやったら、がくりと頭と肩が落ちた。大型犬が、しゅんと耳としっぽを垂らしたみたいな、そんなイメージ。確かにうぜェ。

 そう、今日はサンジの誕生日なのだった。


 うじうじ落ちこむかと思ったが、意外に復活は早かった。
「君が私の誕生日を知っていてくれただけでも、嬉しいよ」
 この坊ちゃん育ちは、結構打たれ強く、思考がポジティブだ。俺が知っていた、という部分だけを受け入れて、すぐににこにこと笑顔になった。
 俺は作業続行を諦めて、身体ごとサンジに向き直った。
「で? 何か欲しいモンでもあんのか、あんた」
「……くれるの?」
「俺にやれるモンならな。言っとくが、俺ァ何もねェぞ。金も、金目のモンも……全部あんたのだし」
 そんなのを欲しがるような奴じゃない――というか、自分のほうがよっぽど持ってんだろう――と判っていて、敢えて訊いてみた。
 俺にだって、祝ってやる気がまったくないわけじゃない。知らなかったならともかく、知らされちまってたわけだし。ただ、何をやったら喜ぶかの想像がつかなくて、何も用意してないってだけで。
 サンジは案の定、「そういうものは要らないよ」と苦笑しつつ答えた。
 しかし、じゃあなんでわざわざ言ってきたんだろう。
『おめでとう』の言葉――あ、まだ言ってねェ――、豪華な料理にケーキに酒。は、俺の好みか。とにかく、そういうのだって、こいつは大して興味がない。酒は嗜む程度だし、甘いもんは苦手らしいし、少食だし。嗜好品といや、煙草くらいか。
 そんな奴にやれるモンなんか、やっぱりどう考えても思いつかない。
 俺が眉間にしわを寄せて悩んでいると、サンジがそっと手を差し伸べてきた。頬を包み込むようにされ、キスされる、と判る。こいつの癖だ。大人しく唇が降りてくるのを待つ。
 キスは思ったよりも軽く、ちゅっと音を立てて触れるだけで、すぐ離れていった。
「…………?」
 思わず、いぶかしむような目を向けてしまった。あァ、また俺のほうがヤル気満々みてェじゃねェか。
「ゾロ」
 呼びかけとは少し違うふうに呼ばれて、首を傾げる。
 サンジはふわりと笑んで、
「ゾロが欲しい」
「――はァ?」
「君を私にくれ」
「…………」
 言葉もなかった。何を言ってるんだこいつは。欲しいものを訊いて、返ってきた答えが『俺』?
 俺は思いっきり呆れた目でサンジを見た。
「今、ここにいる俺は何だよ。その時点で、俺ァ、とっくに……」
 てめェのもんじゃねェのかと、続ける前に抱き竦められた。窒息させる気か、というほど力加減なく――細っこい身体してるように見えて、意外に鍛えてあんのはイヤってほど知ってんだけどよ――ぎゅうぎゅうと締め付けられて、本気で一瞬息が詰まった。
「――ってめ、」
 ぐいと胸を押し返してやれば、少しだけ力が緩められて、代わりのように顔中にキスをされた。
「ああ、ゾロ、ゾロ。愛してるよ、すごく嬉しい、君からそんなこと言ってくれるなんて」
「……ばァか」
 うっとりとした声音で言われて、こっちが恥ずかしくなってサンジの肩に顔を埋めた。そうするとサンジは、頭のてっぺんにもキスを落としてきた。
 あいしてる、囁く声に耳元をくすぐられて小さく身を震わせた俺は、声もなく俯くようにして頷いた。
 顔はきっと真っ赤だ。

 

 

 その日はほとんど一日中、ベッドで過ごすことになった。
 セックスばかりしてたわけじゃないけど、キスはやたらいっぱいした。俺からしてやると、サンジがすごく嬉しそうに笑うんで、多分もう一生分くらいしちまったんじゃねェのってくらいしてやった。
 メシ食って、キスして、抱きあって少し眠って、目が覚めたらまたキスして、求められるまま身体を開いて。
 久しぶりにフェラもしてやったし、上に乗ってやったりもした。あとで思い出したらきっと叫び出したくなるだろうってほど、ナミいわくのサービスってのをしまくった。
 サンジは喜んでくれたが、「私以外にこんなことしてはダメだよ?」としつこく念を押された。四六時中一緒にいて、余所の男捕まえる隙なんか作らせねェくせに。
 最後に、おめでとうと言ってキスをしたら、泣きそうな顔になった。アホだ、こいつ。

 

 

 翌日、判りやすく上機嫌なサンジと俺を交互に見て、ナミがニヤニヤしながら訊いてきた。
「何よ、サーってばすごいご機嫌じゃない。どんなサービスしたげたのよ?」
 とりあえずスッ惚けておいたが、用意周到なサンジから寄越された――逆じゃね?――このペンダントにしてる指輪の存在に気づかれたら大変なことになると、思わず胸元を掴んでしまう。
 勘のいいナミにばれるのに、そう時間はかからなそうだ。
 それ以前に、サンジの奴があっさり口を滑らしちまいそうだしな。

 

 

 

 

      ――――END

 



サンジさん、ハッピーバースデー!!
これでもう三回目のお祝いです。
他2本くらいネタがありましたが、『花売り』の設定で。
うち1本は春コミ合わせの本にしようかなと考え中。
もう1本は、ルゾロベースでルフィがナチュラルにブラック、とゆー
どこがサン誕やねん、いやサン誕ですよ、なネタだったのでお蔵入りかも。
なんか、本編終わってないからネタばれチックですが、
こっちのオチはあたし的に重要ではないので、OKなのです(?)
'10.03.02up


 

 

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