ぜんぶちょうだい



 その日は、コックの誕生日だった。
 覚えていた、と言うよりは思い出させられた。数日前のことだ。
 てめェのこったから、プレゼントなんて期待してねェけどよ。タバコをふかしながらそんなふうに言った奴は、前日の夜は空けとけ、と偉そうに命令してきた。
 その態度にいささかムッとしたものの、どちらも夜番の予定ではなかったので、とりあえず了承した。プレゼントの用意がないのは、そのとおりだったので。
 そして、指定された夜。
 トレーニングを終えて風呂を使って、約束どおりキッチンに現れた俺に、奴はとんでもねェことを要求してきやがった。
 曰く。

「ゾロの童貞、俺に頂戴」

 一瞬、言われた意味が判らなくて。
 ようやく脳がその言葉を理解すると、俺はまず呆れた。
 確かこのアホは、最初にそういうことになったとき、ごく当たり前であるかのように俺を押し倒してきて。
 俺のほうも奴を抱くつもりだったと知った途端、心配になるどころかいっそ引くくらいの勢いで顔面蒼白になり。
 何言ってんだか判らんくらいの早口で、自分が上であるべきだというようなことを延々捲くしたて、終いにはアホらしくなった俺が折れてやったのだ。
 細かいことは覚えてねェが、確か、童貞には荷が重いだとか、自分のほうがテクがあるとか、絶対に満足させてみせるとか、そんなことを言っていた、と思う。
 まァそんときは、次はひっくり返してやりゃいいと、そんな考えでいたわけだが。
 そのまま未だにポジションが変わってねェのは、奴が言うだけのことはあったからだ。
 さすがに一発目はキツかったが、そのまま挑まれた二発目にはきっちりイカされたし。スタミナがなさそうに見えて、アッチのほうばかりかなり強くて、俺の体力をもってしてもたまに付き合いきれねェくれェだし。
 ぶっちゃけ、少々悔しくはあるし不本意だけれど、奴の宣言どおり『満足』させられていた、わけだ。それを。
 今になって何をほざくやらこのヘタレクソコックが。
 俺の冷めたまなざしに気づいたか、コックは微妙に目線を逸らしつつ、それでもなおめげずに言葉を継いだ。

「や、あのさ? お前、女の子とも経験ないっつってたじゃん? で、俺がバージンもらっちまったわけだろ?」

 バージン言うな。

「ハジメテをもらえたのはクソ嬉しいんだけどよ。不公平かなーと。……俺はホラ、何人もの女性と経験済みだったわけだし、さ」

 もじもじすんな。気色悪ィ。

「だからさァ。てめェは俺の処女をもらって。俺はてめェの童貞もらえば、ちょうどフェアになんじゃね?」

 ……………………。
 アホだこいつ。
 フェアって何だ。不公平とか、意味判らん。
 が、無理強いでなく、相手がその気だってェなら、俺がこの申し出を断る理由もねェ。何より本人が、それを『プレゼント』として望んでいるなら。
 俺は、後悔すんなよ、と不敵に笑ってみせ、ご希望通り奴の上に乗っかってやった、――まではよかったが。

 

 

 

 

「――――何っっで、こーなんだよっっ!?」

 事後、思わず喚いた俺の声は、見っとも無いほど掠れていて。ついでに、情けないことに、うつ伏せに倒れた状態のまま、肘をついて身を起こすのがやっとという有様だった。
 隣に横たわった元凶は、タバコを銜えてヘラヘラしている。
 この、口先男!

「いやー、だってよォ。ゾロが俺に欲情してるって思ったら、クソ興奮しちまって。ついつい……」

 言い訳がまた、頭が悪すぎる。
 そうだ。
 このアホは、俺の(たぶん、えらく不慣れな)愛撫を、ご奉仕させてるみてェ、なんぞと嬉しそうに言いやがって。
 あげく、騎乗位ってしたことなくね? とぬけぬけとほざき、憎らしいほど慣れた手つきで俺に手を伸ばしてきて――結局俺は、自分に突っ込まれるモノの準備を懇切丁寧にしてやっただけ、というオチだ。

 一旦その気になっていただけに、裏切られた感は否めない、けれど。
 何より始末に悪いのは、初めての体位にありえねェほど悦がりまくった俺自身だ!

 

 

 しかし、日付変わって、今日はこいつの誕生日で。
 主役は腹立たしいほどに満足そう。
 そもそも別に、今のポジションに不満があるわけでもなかった。
 それでもどこか釈然としないものを感じつつ、俺は奴の唇からタバコを奪い取り、

「おめでとう」

 短い祝いの言葉とともに、キスをしてやった。
 きょとんと目を見開いたあと、だらしなく笑み崩れた男は、俺の頭を抱え込み、いっそう深く俺の口内を蹂躙してきた。
 唇が離れたほんのわずかな隙間で、調子に乗った奴が、「もう一回していい?」とすっかりやる気の声で囁く。
 普段なら一発ぶん殴って――それでも最後には許してしまう、のだが。
 今日ばかりは、しようがねェ。いくらでもてめェの気の済むまで付き合ってやらぁ。

 ただし、こんなんは今日だけだから、その辺しっかり覚えとけよ、絶倫マユゲ。

 

 

 

 

      ――――END

 



サンジさん、ハッピーバースデー!!
二回目のお祝いです。
タイトルは、ゾロ誕と対な感じで。内容は繋がってませんが。
実はサンジさんとしては最初から、途中でひっくり返す気満々だったとか、
結局のとこドMにゃんこなゾロたんに攻めは無理だった、とか。
要するに私の辞書に、リバとか下剋上とかは存在しないのでした…。
でもなんかこのふたり、つか特にゾロたん、身体だけの関係っぽいね…(爆)
'09.03.02up


 

 

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