曖昧な独占欲



 ナミに、ヘラヘラしてるアホ面が、ムカついた。
 別に、いつものことだ。気にするこっちゃねェ。ンなことァ判ってる。
 だが今日は、何だか無性にムカついたのだ。いい加減、煮詰まってもきていた。
 珍しく一緒に酒を呑んでたナミの肩に、手を置いて。振り仰いできたその唇に、唇を押し付ける。
 ナミは一瞬でかい目を見開いたが、触れただけですぐに離れると、ひとつ瞬いただけで何ごともなかったような顔に戻った。
 横目で窺うと、コックは今にも卒倒せんばかりに青褪め、口をポカンと開けて、元々のアホ面が更にアホのようだった。
 俺と目が合った途端、それが一気に怒りの色に染まる。
「っ……てめェ!! レディにいきなり何してやがるッ、このクソ野郎!!」
 逆上して怒鳴り散らす奴に、俺は背を向け、キッチンを出た。
 閉まったドアの内側から、まだ何か怒鳴っているのが聞こえたが、無視した。

 下らねェ。
 自分のしたことも、あのアホの反応も。

 

 夜のトレーニングをしようと格納庫に錘を取りに行ったら、ナミが来た。
 さっきの文句を言われるものだと思い、その場にどかりと座り込んで謝ろうとしたら、ナミはそれより先に口を開いた。
「アレ。……あてつけでしょ。サンジ君への」
「…………」
 そのとおりだったので、黙った。
 そうしたら、ナミは溜め息をついて、
「本っ当、失礼よねアンタって。普通、そんな理由で女の子にキスなんかしないわよ」
「……ごめん。」
 怒りどころはもっともなので、素直に謝っておく。
 ナミは深々とまた溜め息を吐き出した。
「……まァ良いわ。キスひとつで騒ぐような純情少女でもないしね。その代わり、」
 そう言って、俺のほうに手を伸ばしてきた。チャリ、とちいさく音がして、指がピアスに触れたのだと気づく。
 見上げた先に、いかにも胡散臭そうな満面の笑みを浮かべたナミの顔。コックなら見惚れるところかも知れねェが、俺は騙されねェ。
「んだよ」
 訊けば、更に笑みを深くして、
「もう一回。今度は私から、キスさせて」
 座り込んでいる俺の顔の上に覆いかぶさるようにして、身を屈めてくる。
 さっき一度してしまっているのだし、拒むほどのもんでもねェ、と思い、俺は黙って好きにさせることにした。
 近づいてくる、きれいな形と色をした、唇。
 だが、それが再び触れることはなかった。

「ごめん、ナミさん。こいつに、触らねェでくれ」

 攫われるように、肩にまわった腕に引き寄せられて。
 気づいたら、コックの胸に頭を抱え込まれるようにされていた。

 

 ナミが、肩をすくめて去っていく。
 閉まるドアの音。
 それでも、俺を抱く腕の力は緩まない。
 いっつももの言いたげに俺を見ている割に何も言わねェし何もしやがらなかったこれまでが、嘘みてェに。
「……オイ」
 呼びかけに、唸り声が応えた。
「いくら、ナミさんでもっ。てめェに触れんのも触れられんのも、我慢ならねェんだよっ!」
 ――フン、やっと言いやがった。このどヘタレコックめ。
 俺は意地悪く笑ってやった。
「口の他に、ナミがどこに触ったか。知りてェか?」
 コックは悔しそうな表情で俺を睨み、「要らねェ」と吐き捨てた。
「ンなもん忘れちまうぐれェ、俺がこれから全身くまなく触ってやる!」
 ぐいっ、と勢いをつけて押し倒される。
 俺は、ククッと喉の奥で笑った。
 ぐだぐだ悩んでねェで、さっさとこうすりゃよかったんだよ、ばーか。

 そうして、コックは宣言どおり、俺の身体の隅々までを手と唇とで触れ、奥深くまで入り込んで自分のものにした。

 

 

「……で? ナミさん、どこに触ったって?」
 コトの後、手加減なくやられてさすがにぐったりしている俺の上に乗り上げながら、コックが訊いてきた。
「ンだ。やっぱ気にしてんじゃねェか」
「るせェ。しょーがねェだろ、気になるもんは」
「……ピアス」
「あ?」
 きょとんとしている奴に、俺は自分の左耳の飾りを指先で触ってみせた。
「あいつが触ったのは、俺からした時の唇と、この、ピアスだけ。身体にゃ指一本触れてやしねェよ」
 言ってやると、コックの顔が赤くなった。
 今度は怒りじゃなく、多分、勢い余った自分への羞恥だ。
「――――てめェ。タチ悪ィぞ」
「てめェがハッキリしねェからだ」
 ムッとした顔をしてる奴にからかうように言ってやったら、奴は急に照れくさそうな、妙な表情をした。
「な。……今日だったのって、もしかしてプレゼントだったの?」
 何の話だか判らなかったので黙っていたが、コックは俺の胸に懐いて、へへへ、とだらしなく相好を崩していた。
 まァいいか。何でも。
 船窓から見える空は、微かに白み始めていた。

 

 

 その理由を知ったのは、一眠りして起きた後だった。
 やたらと他の奴らがコックに「オメデトウ」を繰り返し、その日の飯は何となく豪華だった(つってもコック自身が作ったもんだが)。
 あァ、そうか。プレゼントっつーのは、誕生日のか。
 そういや呑んでる時はもう日付が変わっていたか。ナミがおとなしく引き上げたのも、そういう理由だったかもしれない。
 しかし。
 あんなもんでプレゼントになんのか。安い奴だ。
 まァ、忘れてたから用意もしてなかったし、他のもんが欲しいっつっても金がなくてやれねェから、よしとするか。
 ちっとぐれェ、甘やかしてはやってもいいけどな。

 

 

 

 

      ――――END

 



ハッピーバースデイ★サンジさん!!
ギリギリ3/2でっす。
サンゾロオンリーに遊びに行って、帰ったばっかで、しんどかったですが。
サンジスキーの名にかけて(金田一少年?)アプらないわけには!!
しかし、これ、祝えてるのか…?
ま! サンジさんは幸せそうなんで、いいってことにします!(をい)
ああ〜〜〜もうサンジさん好きだー好きだー(←アホ)
強気ゾロたん。あくまで受動態で、自分からは何もしないくせにネ!
'08.03.02up


 

 

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