サンジ曰く『マリモのような』珍しい緑の頭も、鋭い目も、逞しい体つきも。 不敵な笑みも、不意に見せる子供みたいな笑顔も、厳しさも、判りにくい優しさも、ぜんぶ。 ルフィ、と呼ばれるたび胸がじんわりとする。 キャプテン、と呼ばれれば身が引き締まる思いがする。 この船に乗っている船員は皆、ルフィにとって大切な仲間で家族で、誰ひとりとして欠かすことなどできないものだけれど。 ゾロへの想いは、その誰に向けるものとも違っていた。 だから。 ルフィは、言わない。言えないのだ。 他の誰に対しても気負いなく、何度でも言える言葉も、ゾロに対してだけは。 『好き』――――と。そんな、たった二文字の、他愛ない言葉であるのに。 言ったら最後、自分を信じ背を預けてくれるゾロは、いなくなる。 ルフィには、それが判っていたのだ。 溶けて消えるはたった今昼寝から覚めました、という様子で欠伸を噛み殺しつつ船首甲板に現れたゾロは、いつもの指定席で海を眺めているルフィに声をかけてきた。 キッチン横を通る際に、中の喧騒を耳にしたのだろう。自身のそれさえ忘れてしまう彼が、ルフィの誕生日を覚えてなどいるはずもない。 ルフィはにかりと笑って、ゾロを振り返った。 「おお! 今夜は肉パーティだ!! ゾロもたくさん飲んで食え!!」 ただし俺の肉はやらねェぞ、と言わずもがなのことを付け足し、にししと笑う。 ゾロも、可笑しそうに笑った。 「そーか、酒飲み放題か」 「そーだ!」 「クソコックの野郎が、うるせェだろうけどな」 「サンジの言うことなんか気にすんな! ぶれーこーだ!!」 「そーか、船長がそう言うんなら構うこたァねェな」 その場にサンジと、この船の大蔵大臣であるナミがいたら、ふたりを蹴倒し、ゲンコツを喰らわせたであろう会話を交わしつつ、笑い合う。 本来ならばゾロも、ルフィの誕生祝のための準備をする彼らを手伝うべきところだろうが、端から戦力と見做されていないらしい。誰ひとり、ゾロを呼びには来なかった。 働かざる者食うべからず、その例外が船長と、この船唯一の戦闘員である剣士だった。下手に手伝わせると却って手間を増やすコンビ、とも言う。 ルフィは、船首に座って。 ゾロは、手摺にもたれて。 ふたりは、徐々に茜に染まっていく水平線を眺めた。 「太陽、沈んでくな」 「そうだな」 「沈んだ後、どーなってんだろな?」 「さァな」 「オレンジ色で、美味そーだな〜」 「まァな」 「お月さんも、バナナみてェで美味そーだけどな!」 「三日月は、そー見えねェでもねェな」 「んで、星は、金平糖だ」 「……てめェは空にあるモンまで全部、食う気かよ」 くすくすと笑う、ゾロは気づいていない。ルフィの視線がいつしか、沈みゆく太陽ではなく、隣に立つゾロへ向けられているのを。 本当に食いたいのは、空のものでも、海のものでもない。 オレンジに染まるきれいな横顔。まっすぐに前だけを見据える、毅い瞳。 ルフィは、麦わら帽子を目深に被り直した。 「おう! 全ー部、俺は食うぞ。俺は、海賊王になって、この世のすべてを手に入れるんだ!」 いつか、世界一の大剣豪になった、お前も――――。 ゾロは穏やかな表情で、そうだなと頷く。それは、ふたりの約束。誰にも邪魔されない、ふたりだけの誓いだ。 「ルフィ」 「ん?」 「……誕生日、オメデトウ」 「おう! サンキュー、ゾロ!」 ぽそりと、少しだけ照れたように祝いの言葉を口にするゾロに満面の笑みで応え、ゴムの腕を伸ばしてゾロの首に巻きつける。そのまま、体当たりするような勢いで、抱きついた。 不意打ちを食らって倒れ込んだゾロの罵声に笑いながら、ルフィはますますきつくゾロを抱き締める。 大好きなゾロ。 でも、決してその想いを口にはしない。 口にしたら、その大切な誓いまでも、溶けて消えてしまうと知っているからだ。まるでわたあめのように甘さだけを残して、儚く。 ならば今のままでいい。 ゾロにとって唯一絶対の、『船長』でい続ける。 それが、ゾロを失わずにすむ、たったひとつの道ならば。
パーティの準備が整い、仲間たちが彼らを呼びに現れるまで、ふたりは甲板に転がり、戯れていた。 まるで、二匹の無邪気な獣のように。
――――END
ルフィ、ハピバ! 誕生日のネタであるにも拘らず、ちっとも祝ってなくてごめんよ。 うちのルゾロはこんなんです。 精神的には両想いですが、結ばれることは絶対にないという…(死) 基本、ゾロたんに『恋愛感情』というものが存在していないので。 ちなみにこの話では、特にゾロたんにお相手はいません。 いなくても、ルフィはゾロたんの意思を尊重してあげます。 余所見をしたくない、という気持ちを。 …男前だなァ船長…!! 大好きだ!!(笑) でも、ちゅうとハグくらいはゾロも許してくれますから!(あれ??) '08.05.05up
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