朝だけは素直な恋人
腕の中で、もぞりと動くひと。
目は、とうに覚めていた。彼も同じだろう。そうっと、俺の様子を窺ってくる。
俺は目を閉じたまま、眠ったふりを続けた。
もぞもぞ、もぞ、と彼がまた動き、身を反転させる。向かい合わせになって、そっと肌蹴た胸に顔を埋めてくる。
そんなに動いて、俺が目を覚まさないわけないのに、それくらい彼だって判っているだろうに。
こんなふうにしか甘えられない、不器用なひと。
はじめて抱いたとき。
俺は長期任務明けで、余裕がなくて。
だれでもよかったわけじゃない、けれどそう取られても仕方ないくらい、強引なやり方になった。
だけど、事が終って落ち着いたあと、謝ろうと口を開きかけた俺を、彼が遮った。
『俺、気にしてませんから』
俺の、どんな言葉も受け入れない、そんな声音だった。
きっかけを作ったのは俺だけれど、先にふたりの間に線を引いたのは、彼だったのだ。
以来。
何度愛していると告げても、彼は寂しそうに笑うだけ。
判っていると言うくせに、本当はちっとも判っていないのだと、たぶん彼自身気付いていない。
俺と彼の間には、いつでも一本の線が引いてあって。
越えるのは簡単なはずのそれを、互いに越えられずにいる。
俺を好きだと。
その目が、表情が、しぐさが、雄弁に語っているくせに。
続くわけがないと、勝手にこの関係を、俺の気持ちを決め付けて。
これ以上近づくことを無意識に恐れ、尻込みしている彼を、どう扱っていいか正直持て余している。
昼は他人の顔で笑み交わし、
夜は欲望に任せて彼を組み敷いて。
俺はただ、彼の望むがままに振る舞うだけ。
でも、朝だけは、眠っている間は、こうして彼のほうから近づいてくるから。
ねぇ、俺のかわいいアナタ。
俺もいい加減、こんなふうに眠ったふりを続けるのも限界です。
だから、ねぇ。
そろそろ、朝以外にも睦言をささやきあう、フツウの恋人になりませんか。
閉じていた目を開いて、寝惚けたふりで彼を抱き締める。
逃がさぬようにぎゅっと抱いて、額にキスを落とす。
俺が目覚めていることを知り、身を強張らせる彼の耳元へ唇を寄せ、そっと囁く。
「……誕生日おめでとう、イルカせんせ」
驚く表情が、目に見えるよう。唇に、知らず笑みが浮かぶ。
もう観念してしまいなさい。
さあ。
アナタが引いた線、飛び越えちゃうよ?
イルカ先生生誕祝SS。
『朝だけの恋人』のカカシ先生side。
古いですね! 何と四年前ですよ!! 何書いたか忘れてたよ…!
今回は、めちゃめちゃフライング更新です。
オンリー近いと、余裕ないんで。今のうちに。
イルカ先生は、朝だけで満足してるつもりだけど、
そんなわけないでショ、つか俺は嫌! っていうカカシ先生でした〜
(そんな話だっけ…?)
'07.05.21up
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