何よりも甘いもの。


 

 確かに、誕生日には付き物だ。
 今日ばかりは仕方がないと思っていた。一気に食べてしまえば何とかなるだろうと。
 しかし。

 目の前には、でんと置かれたクリームたっぷりのケーキ1ホール。どういうわけか、イチゴではなくチェリーが飾られている。
 中央には”HAPPY BIRTHDAY”と書かれたチョコプレート。
 そして、おそらくきっちりと数えて27本立てられた、色とりどりのローソク……。
 カカシは思わず顔を引きつらせた。
 確かに、甘いものが嫌いだなんて口に出して言った覚えはない。けれど、二人のとき一度もそういったものを食べようとしていなければ、普通は気づくのじゃないだろうか?
 実際、イルカはよく目の前でひとりで食べていたのに。勧められて断ったこともあるのに。
 しかも、赤の他人というならともかく、自分たちは半同棲状態の恋人同士なのだ。

 ――――あるいはコレは嫌がらせか。

 ここ数日ケンカをした記憶は一切ないが、知らぬ間にイルカを怒らせていたのかも。それならばこういう子供じみた報復も納得がいく。
 早々に謝って、この部屋中に甘い匂いを撒き散らしているモノを片づけてもらおうか。だが何に対して謝ればいいのだろうか。
 訳も判らず謝ってしまえば、さらに怒らせることになってしまう。付き合い始めの頃、彼の怒りを治めたくてとりあえず謝ったら、「俺がなんで怒ってるかも判らないで謝るなんて、誠意がない」と冷たく言われ、その後一週間以上口を聞いてもらえなかったことがあった。
 彼の怒りは、静かなほど長く、恐ろしい。
 普段は怒鳴るし笑うし、とても忍びとは思えないほど感情豊かなひとなのに、本気で怒るとそれらの感情がすべて冷たく凍り付いてしまう。
 笑っていない笑顔がこの上もなく怖いものだと知ったのは、彼と付き合ってからのことだった。

 ――――いやいや、そーじゃないでしょ俺。現実逃避してどーすんの。

 カカシは改めてケーキを見下ろした。
 もしかしなくても一番大きいのを買ってきたらしい。高価かっただろう。倹約家の彼が、嫌がらせのためにこんな無駄遣いをするとは思えない。
「……あの。すみません、やっぱりイチゴのほうがよかったですよね……? ちょっと予算オーバーしちゃって、それで……」
 じっとケーキを見つめているカカシをどう思ったか、イルカが上目遣いで窺ってくる。
 どうやら怒っているわけではない、らしい。
 少しバツが悪そうに笑っている表情に、無理はない。カカシは「いいんですよ」と言いながら、はははと乾いた笑いを漏らした。

「じゃ……、食べましょっか」

 

 ローソクに点った火を子供のように吹き消したあと、ローソクをすべて取り除いたケーキに、イルカがナイフを入れる。
 仕方ない、覚悟を決めるか、とフォークを手に取ったカカシだったが……。
「はい、カカシ先生。どうぞ」
 皿に取り分けられたのは、吐息だけで倒れそうなほど薄く切られたケーキ。
「………え?」
「すみません、やっぱりせっかくの誕生日ですし。それだけでも食ってくださいね。あとは俺が頂いちゃいますんで」
 ぽかんとしているカカシに、イルカは照れたような笑みを向けて、
「一度、ケーキ丸ごと食ってみたかったんですよね」

 カカシとは逆に甘いものに目がないイルカの、昔からの野望だったのだと言う。
 こんな行事のときとかでないとなかなか機会がなくて、と彼は鼻の傷を指先で掻いた。つまりこの馬鹿でかいケーキは、そのためのもので。
 カカシが甘いものが苦手であることは、ちゃんと判っていたらしい。

「カカシ先生、誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます、イルカ先生」
 嬉しそうにケーキにフォークを突き立てているイルカが可愛くて、自分の勘違いがおかしくて、カカシは笑った。

 

 

 その夜交わしたキスはひどく甘ったるかったけれど、こんな甘さなら大歓迎だとカカシは思った。

 

 

――――――end★

 



多分、分単位でオーバーしてると思いますが、
カカシ先生生誕祝SS。
去年のカカシ先生は自らケーキを強請ってましたが。
今年はイルカ先生が自分のために用意しました(笑)
何はともあれ、はぴばすでー★カカシ先生!!
ケーキより甘い二人の夜に乾杯!(寒)
'04.09.15up


 

 

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