あかいいと
運命なんて信じてない。
出会いも別れも、何もかも必然だったなんて思わない。
すべては偶然だったと、俺は思う。
そう、あのひとに出会えたことも、キセキなんかじゃなく、ただの偶然。
「風が気持ちいいですね」
珍しくきれいに晴れた、初夏の夕暮れ。
隣を歩く彼が、目を細めてそう言った。
俺に同意を求めるというより独り言に近かったが、俺はそうですねぇ、と相槌を打った。
帰宅途中の彼とたまたま行き会い食事に誘って、これから手ごろな店を探しに行くところだ。
奢りを嫌がる彼の懐具合と、いまの気分から、おそらく定食屋になるだろう。いつでも食欲旺盛な彼ほどではないが、俺も今日はボリュームのあるものが食べたい。
彼―――イルカ先生と夕食や酒の席を共にするのは、初めてのことではない。
知り合ったきっかけは、俺の担当する第七班の下忍たち。彼らのアカデミー時代の担任が、イルカ先生だったのだ。
子供らの話を聞くために、食事に誘ったのが最初。以来、行き会えば俺から誘うようになった。俺たちは偶然出会うことが、なぜかよくあるのだ。
いちどゆっくりと話して思った。
彼と話しているとなんとなくホッとする。とても穏やかな気持ちになれる。
上忍と中忍という階級差を気にしてか、彼のほうから近づいてくることはないけれど、それでもはじめは多少硬かった表情がだんだんとやわらぎ、最近では俺が声をかけると嬉しそうに笑ってくれるようになった。
彼が笑いかけてくれると、胸の中があたたかいものでいっぱいになる。トキメキだとか、そんなものとは無縁だけれど。
俺は彼のことが好きだ。友情とかではなく、恋愛感情として。異性に対して感じるのと同じ気持ちで。
「カカシ先生」
不意に名を呼ばれ、物思いに耽っていた俺はハッと我に返った。
「あ……、すみません、何ですか?」
「夕飯。このあいだの定食屋にしましょうよ。あそこの焼き魚定食、また食べたいです」
ニコニコと笑っている彼は、俺の想いになど気づいていないのだろう。
いいですね、そうしましょうか、などと笑顔で返しながら、そんな当たり前のことを少しだけ寂しいなぁと思った。
彼もおなじ気持ちでいてくれたらいいのに。
それから何度目かに食事をした帰り道。
俺はついに、彼に想いを打ち明けた。
「アナタのことが好きです」
びっくりした顔で、目を見開いているイルカ先生。いかにも奇妙なことを聞いたというようにポカンと開けられた口元に一瞬、失敗したかなという思いが過った。
だが次の瞬間、彼はぱぁっと頬を赤く染めた。そして、
「………うれしいです」
はにかんだような笑みを浮かべ、彼はそう答えた。
「え」
冗談だと思われるか、怒り出すか、嫌悪の目で見られるか……とある程度のことは覚悟していただけに、すぐには何を言われたか判らず、俺は間抜けた声をあげてしまった。
「俺も、カカシ先生が好きです」
「ほ……ホントに? それって、俺と恋人として付き合ってくれるってことですか」
あまりに自分に都合がよすぎる展開で、思わず念を押してしまうと、彼は赤い顔のままこくりと頷いた。
唐突な告白だった自覚はある。食事をしているときまでは、いつもと変わった様子も見せなかった。自分でもこんなつもりではなかった、ほぼ衝動的な告白だったのだ。万一うまくいったとしても、こんなにすぐに返事をもらえるなどとは思っていなかったのに。
だが彼が次に言った言葉は、さらに衝撃的だった。
「だってアナタは、俺の運命のひとだから」
赤い糸、見えませんか? そう言って笑い、彼は小指を立てて見せたのだった。
彼によると、頻繁に帰り道で出会っていたのは偶然ではなく運命なのだと。
互いに想いあえていたのならそれはもう奇跡なのだという。
意外にロマンチストだった彼のその言葉を聞いて、笑い飛ばすよりも何だか感動さえ覚えてしまって。
運命なんてそんなもの、信じてなんかいなかったのに、少しだけ。
彼がそう言うのなら信じてみてもいいかもしれないと、思った。
我ながら現金なことだと、自分を笑いつつ。
手をつないで歩きながら、この指に本当に彼に繋がる赤い糸が見えればいいのにと願った。
――――――end
カカシ×イルカリンクトップ企画投稿作品。テーマは「赤い糸」。
まんまなタイトルはどーかと思い、投稿時は変えてました。
先週の時点で、これくらいはUPしたかったのに…。
体調はこれから少しずつ、よくなるはず。
ロマンチストなイルカ先生を書きたかっただけみたいな気も…。
背景の赤い糸。
もっとちゃんとしたものを描けばよかったかな…毛糸みたい(>_<)
'04.07.05up
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