たったひとり〜5〜まるでもったいぶっているみたいに躊躇する素振りを見せたあと、イルカがくちにしてくれた言葉は、カカシをこの上もなくしあわせな気持ちにさせた。 夢を見ているのではないだろうか。 決して手に入らないひとと、諦めかけていたのに。 イルカが好きと言ってくれた。それも、"ずっと"と。いつから、と問えば、返ってきたのは「はじめて挨拶を交わしたときから」という信じられないもので。 情けなくも、泣きそうになってしまった。 それを誤魔化すために、真っ赤になっているイルカをそっと抱き寄せた。びくりと震える身体。それでもすぐに力を抜いて、おずおずと手を背中にまわしてくれる。 そうだ、もう片想いではないのだ。互いに想いを告げあって、抱き締めあって――――そう、もうこのひとに触ることも許されるのだ。 ああ、と吐息のように漏れる声。それに擽られた耳から、全身がじんわりとあたたかくなってゆく。 「イルカ先生、好き。好きです……」 「……俺も…です。好きです」 互いに飽きることなく繰り返す言葉。だってもう、いくら言ってもいいのだ。本当はずっと、言いたかった。 そこが、ひと気がないとはいえ往来であることにイルカが気づくまで、ふたりは固く抱きしめあっていた。
その後そのまま、アスマに報告に行くことにした。 何だかんだ言っても、こうしてイルカと想いを通じ合えたのは彼のおせっかいのおかげだ。 イルカは恥ずかしがっていたが、やはり兄のように慕うアスマにはきちんとしておきたいと、カカシに頷いてくれた。 任務に発つところだったアスマを大門の前で捕まえると、何も言わないうちに察したらしい彼は、すこしだけ複雑そうな表情をした。 「一応、礼は言っとかないとと思ってね」 カカシの、とても感謝しているとは思えない態度に、「要らねえよ」と嫌そうに言い、それより、と真剣な目をカカシに向けた。 「イルカを置いて逝くようなことがあったら、ぶっ殺すからな」 アスマがどれだけイルカを大切に思っているかが窺える科白。カカシも、まっすぐにその目を見返した。 「肝に銘じとくよ」 カカシの答えを聞くと、アスマはふたりに背を向けた。 お気をつけて、と声をかけたイルカに、「ああ」とぶっきらぼうに返して。 門を出て行くアスマを、ふたりはその背が見えなくなるまでずっと見送っていた。
「さて、どうします?」 あー何か緊張した、と首をまわしながら問うと、イルカは意味が判らなかったらしく「え?」と訊き返してきた。 「明日、俺、任務明けで一日休みなんですよね」 一応は病み上がりということを考慮してくれたのか、五代目から「明日はゆっくり休め」と言われているのだ。するとイルカも、「俺も休みです」と言った。 「十日くらい休みなしで任務に出てたので、一日だけ」 「………それはラッキーですね」 思わず呟いた言葉に、イルカは「はあ」と気の抜けた返事を返してきた。 ――――本当は、想いが通じて抱き合ったとき、すぐにも自宅に連れ込んでしまいたかった。だがその前にどうしてもけじめをつけておきたくて我慢したのだ。 だってもう、このひとは自分のもので。自分も、このひとのもので。 その先にあるものなんて、判りきっている。 いまいち判っていなさそうなイルカの肩を抱き寄せ、耳元へ囁く。 「これから、俺の部屋へ来ませんか……?」 互いにイイ大人だ。さすがに意味を悟ったイルカが耳まで真っ赤になる。カカシはそのまま押し倒してしまいたい衝動を辛うじて堪えた。 うろたえて、潤んだ瞳に困惑の色を浮かべながら見上げてくる想い人を、安心させようと微笑みかける。 いいでしょう、そうねだるように続ければ、恥ずかしさにか俯いてしまったイルカが、やがて消え入りそうな声で「……はい」と頷いてくれたのだった。 カカシの部屋への道のりを、手を繋いで歩く。 すでに暗いとは言え、人通りがまったくないわけではなく、イルカはしばらく躊躇していたが、甘えてねだると頬を染めて手を差し出してくれた。 夢を見ているみたいだ、とイルカが呟いた。 夢なら覚めなければいい、とカカシは願った。 "たったひとり"と思える相手を見つけられた、それだけでも奇跡に近いのに。その"たったひとり"のひととこうして結ばれることが出来たのだ。 しあわせすぎて、泣きそうだ。 こっそりと繋いだ手の指を、深く絡める。 ――――アナタを諦めないでよかった。
E N D .
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いまいち中途半端なような気もしますが、 何とか終われました…! キリリクで全五話って、初めてですよ(^_^;) エロを入れるべきかとかちょっと思ったりもしましたが、 このふたりで裏仕様とか浮かばなくて! 輝夜様、長らくお待たせしました。 こんなんなりましたが、どうぞお納めくださいm(__)m '05.06.20up
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