たったひとり〜3〜呼び出して、単刀直入に言ってやると、カカシは顔のほとんどを覆い隠しているにも関わらず、目に見えて表情を変えた。 だが瞬時に、すでにアスマが何もかも気づいていること、誤魔化しは効かないであろうことを悟ったのか、いったん瞼を伏せ、それからまっすぐにアスマを見据えてきた。 「……何。牽制のつもり? 心配しなくてもあのひとをどうこうしようなんて思ってないよ」 話がそれだけなら…と立ち去ろうとしたカカシの腕を、アスマは乱暴に掴んだ。痕が残りそうな力で握り締められ、カカシが不快げに眉を寄せる。 それをものともせず、 「ちゃんと答えやがれ。イルカのことをどう想ってる」 その、思いがけず真剣なまなざしに遭い、カカシはわずかに戸惑った。何ごとにもやる気なさげな、いつものアスマらしくない。 「……何なわけ、一体」 「お前がそんな調子じゃ困るっつってんだよ!」 声を荒げるアスマの脳裏に、先日のイルカとの会話がよみがえる。 カカシのことは諦めろ。そう言ったアスマに、イルカは驚いた様子で「どうして」と呟いた。 『どうしてですか? 急に……っていうか諦めろもなにも、俺、最初からカカシ先生とどうこうなれるなんて思ってませんし……』 『アイツだけは、ダメだ。その想いごと全部忘れちまえって言ってんだ』 『納得できません! そんなの、いきなり……っ』 『………アイツは、"死"に近すぎる』 『………………』 しばし黙り込んだイルカは、しかしやがてくちを開き、そして。
「好きだよ」 観念したように目を閉じ、カカシが言った。そしてすぐにその目を、アスマへと向けた。鋭いまなざし。まるで、倒すべき敵を前にしたときのような。 いや、カカシにとっては『まるで』ではなくそのとおりなのだろう。 「できるもんなら、お前から奪ってやりたいくらい。あのひとが好きだ」 まっすぐな想い。 ああ、あいつもおなじ目をしていた―――アスマは眩しくそのまなざしを受け止めた。 『アスマさん、俺、いつも甘えてばかりでしたけど』 『そりゃ、あのひとは俺には遠くて、とても手が届くなんて思えないですけど、でも』 『――――好きなんです。あのひとが誰かのものでも、たとえいつか俺より先に死んでしまうひとでも。この気持ちは、捨てられない』 イルカが大切だった。恋愛感情ではなかったけれど。 友人のように、家族のように、とても大切に想っていたから。カカシの気持ちにも気づいていたけれど、ふたりを結びつけようとは思えなかった。 上忍―――それも元暗部であるカカシは、この先常に危険度の高い任務を宛がわれるようになるだろう。カカシにとっては以前の生活に戻るだけかもしれない。だがイルカはどうなる。 自分なんかよりもずっと"死"に近いところにいるカカシと、相愛になったとして。 カカシを失う痛みに、イルカが耐えられるとはアスマにはどうしても思えなかったのだ。イルカには悲しい思いや辛い思いは、なるべくさせたくない。 だがイルカは、それでもカカシがいいと言った。何があってもカカシを想う気持ちを捨てたりしないと言い切った。 だからこそ。 カカシの本心を知りたかった。そこまでのイルカの想いを受け止められるかどうかを、確かめたかった。 「だったら奪ってみろよ。俺以上にイルカを幸せにできるってんならな」 そのくらいの覚悟もない奴に、あいつを任せられっかよ。 悔しげに睨み付けてくるカカシに、アスマは余裕ありげににやりと笑って見せた。それに、嫌そうな顔をしたカカシは、しかしすぐにそれを困ったような笑みに変えて。 「そこまで言われちゃあね。……ま、当たって砕けてみましょっかね」 やれやれと溜め息をつき、頭をガシガシと乱暴に掻くと、アスマに背を向けて「おせっかい、どーも」、ひらりと手を振って今度こそ立ち去った。 その後ろ姿を見送ったアスマは、 「ったくめんどくせえ奴らだな」 独りごち、タバコを取り出すと口にくわえて火をつけた。 気分はほとんど、娘を嫁に出す父親のそれだ。
「…………苦ェ」 こんなにタバコを苦く感じたのは、初めてかもしれない。
はい…続きです。 今回は三人称ですが、アスマ先生サイドかな? やっぱりアスマ先生が大好きな桃木。 実はアス紅よりアスイルが好きなので(アスカカなんて論外!)、 ウチのアスマ先生はいつもイルカ先生びいきです(死) 幼馴染設定、万歳!!(これ、カカイルですから。) '05.05.23up
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