頑張ってこー!



 ご機嫌だね英二、と不二が笑った。そのセリフを聞くのは、朝からもう三回目で、俺は思わず笑ってしまった。
 ちなみに一回目はかーさんで、二回目は上のねーちゃんだ。
「うん、ごっきげんだよー♪」
 俺はラケットバッグをぶんぶん振り回しながら言った。
 バスに乗り込む移動中。俺たちは先頭にいる部長の手塚と竜崎先生よりすこしだけ離れた、でも順番的には前のほうを歩いてる。
 そう、ご機嫌なのは当たり前!
 今日からテニス部レギュラーの強化合宿。ケガして外れた大石も、副部長だからもちろん参加だ。やっぱパートナーが一緒だと嬉しい。
 けど、それより何よりも。
 だーいすきな恋人の手塚と、にゃんと三日もずっと一緒にいられるのだ!
「うーれしいなっ、手塚と一緒の合宿〜♪」
 浮かれちゃって思わず歌う俺に、不二は冷ややかな目を向けてくる。と思ったら、イキナリにっこり笑って。
 くるっと俺に背を向けた。
 海堂がいてタカさんがいて、お手伝い係の一年生トリオがいて。その、後ろ。
「乾ー! 英二がメチャメチャ張り切ってるから、特別メニュー作ってあげてー!」
にゃあああ!! 不二ィイイ!!!
 慌てて叫んだけど、逃げ遅れたおチビに何やら語っていた乾の耳に、しっかり入ってしまった。振り返った乾は逆光で、にゃんかブキミにわらってた……。
 こ・こわいよぅ。
 二泊三日の強化合宿。ただでさえハードなのに、それプラス特別メニューって!
 いったい俺はどーなっちゃうのだ!?
 合宿所へ向かうバスの中、後ろのほうの座席でそりゃもううれしそ―――っっに何かを書いてる乾を、不二が面白そうに覗き込んで、何か言ってた。
 うう。俺のラブラブ合宿、早くもピンチ!? ってゆーか。
 ふたりとも、マジで怖いよぅ……。

 

 

「よーし、今日はここまでじゃ! 明日もビシビシいくからな、しっかり身体を休めろよ!」
 スミレちゃん(by不二)の解散の号令がかかった途端、俺はへにゃっとその場に膝をついた。
 バテた……。いんや、マジバテたなんてもんじゃナイっス。
 大石とのダブルス強化メニュー、俺用のスタミナ増強メニューに加えて、乾(と、不二)が嬉々として俺のために作ってくれた(泣)特別メニュー。
 ――――あのふたりは俺を殺す気に違いナイ……。
 ちょっとマジで思いましたよ。途中でお花畑見えかけたもんね。
「英二、大丈夫か?」
「うう――……あんがと大石」
 差し出された手をつかんで、何とかヨイショッと立ち上がる。夕食食べれそうか? って心配そうに言う大石。うー、やっぱ優しいにゃ〜大石は。
 うーん、何とか〜。と、えへへーとか笑いながら応えて、ちょっと支えてーと後ろっから肩にもたれかかる。
 大石とラケットなしタカさんは、青学テニス部の癒しだと、俺は思う。
 こーゆーときは桃やおチビの相手はあんましたくない。テンション上がりすぎて余計疲れちゃうもんね。
 このまま引きずってってもらおう、と思って大石に懐いてたら。
 にゃんだか、……殺気?
 恐る恐る振り向いてみた先に、気づけば今日一度もお話できてない、『だーいすきな恋人』がこっちを睨んで立っていた……。
 …………ノー!!!(>△<)
 ぷいっとそっぽ向いてどっか行っちゃう(宿はそっちじゃナイよ?)手塚。大石がしょうがない奴だなって顔して溜め息をついた。
 どうしようどうしようってオロオロしてたら、手塚はどんどん行っちゃって。
「あっ、あっっ、手塚、待ってよー!」
 俺はさっきまでの疲れもぶっ飛んで、大石から急いで離れて手塚の後を追っかけた。

 

 最初はウキウキしてたんだ。
 何しろ四六時中手塚と一緒の合宿。楽しみで楽しみで、朝会ったらまず何言おうとか、練習終わったら一緒にゴハン食べようとか、どっかでふたりっきりになれたりしないかにゃーとか、いろいろ。
 それなのに。
 不二と乾の所為で、朝からそんな余裕どっかにいっちゃってた。
 大好きで大好きで、大好きなひとなのに。やっとで手に入れた恋人なのに。
 追いついた手塚の腕を掴んだら、手塚はビクッと震えたけどこっちを向いてくれなかった。
 何て言っていいのか、俺はしばらく悩んだけど……えいっ、と手塚を抱き締めた。
「んと、……ゴメンね手塚。俺ってばちょっと疲れちゃってて。ね、一緒にゴハン食べに行こ?」
「……大石と行くんだろう」
「うー、あーゴメン。ほんっとゴメン。手塚のこと忘れてたんじゃナイよー」
 大人しく俺に抱っこされながらもムッとした声を出す手塚に、俺はひたすら謝る。
 大好き、って言ったら、ちょっとだけ手塚の固くなってたカラダからちからが抜けた。もっかいゴメンって謝ったら、「もういい」って言ってくれて。
 なんだかすっごく嬉しくなったから、
「んじゃ、仲直りのちゅーしよ?」
 ドサクサに紛れておねだりしたら(ケンカしてたワケじゃないけどさ)、手塚が真っ赤になった。
 うわー、かわいいっ!!
 思わずぎゅうってきつく抱き締めた。
「き、菊丸っ……ひとが来たらっ」
「みんなゴハン食べに行ってるよッ」
 がばっと顔を近づけた俺に、焦る手塚。でも俺の言葉に、ううって低く唸って。
 俺のキスを、目を瞑って受け入れてくれた。
 そして俺たちは、そのまましばらくの間くっついていた。

 

 初日っから予想外にハードな強化合宿。
 でも、手塚と一緒だから。

 うっし!! 明日もガンバルぞー!!

 

 

    x x x おまけ。x x x

「不二、乾、あまり英二をいじめるなよ(手塚にまで影響するから……)」
「だってひとりで幸せそうでムカつくんだもん、ねー」
「ねー(ひっくい声で)」
「……(ダメだコイツラ、俺には止められない……スマン英二)」

 

 

おわり

 



朱華様からリクエストいただきました。
ものすっごく久しぶりの菊塚。
何故かまたも合宿ネタ。好きなんかな……(^_^;)
可愛い雰囲気の話を、とのことでしたのでちゅー止まりで。
最後のほうしか会話してませんが、ラブ度は高いかと。
朱華様、リクありがとうございました。
微妙に中途半端な話ですが、どうぞお納めくださいませm(__)m
'05.08.08up


 

 

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