ナツノヨルノキセキ「サスケく〜ん。今日七夕だねっ。天気もいいし、今夜はあたしと星空デートしない?」 嬉しそうに声のトーンを心持ち上げて、語尾にいくつもハートをくっつけて、サクラがいつものように片恋の相手を誘う。サスケは「下らん」とさっさと背を向けてしまい、それを「ああん、待ってよ〜」などと引き止めようとしている。 いくら素っ気無くされても挫けないあたり、なかなかの根性だ、と彼らの上官であるカカシは報告書を手にその場を去りながら思った。 いつもならばそれを阻止しようとするナルトは、しかしきょとんと目を見開いて。 「サクラちゃん、たなばたって何だってばよ?」 「えー! アンタ知らないのォ!? 七夕っていったら、年に一度、恋人たちが天の川を渡って逢えるってゆーステキな日じゃない! それでその日の夜、笹に願いごとを書いた短冊を吊るすと、お星様が願いを叶えてくれるのよ!」 ロマンチックよね〜♥ とうっとりしていたサクラは、しばらくしてやっとカカシと、サスケの姿がすでにないことに気づいた。 「もうッ! アンタの所為でサスケくん行っちゃったじゃないの!!」 カカシのことはいいらしい(当たり前か)。 ナルトにそう怒鳴ると、待って〜サスケくん! と慌しく遠くに辛うじて見える影を追っていく。 残されたナルトの頭の中は、?マークでいっぱいだ。サクラの、色々と端折られた説明では、いまいちよく判らなかったのだ。 あまのがわってどこにある川だってばよ? とか、なんで年に一度しか逢えないんだってばよ? とか。疑問は尽きなかったけれど。 お星様が願いを叶えてくれる。 ナルトの夢は火影になること。でもそれは、自分の力で何とかできると信じている。でも、もうひとつの夢は。 「サクラちゃーん! ササってどこにあんのー!?」 遠ざかっていく後ろ姿に叫べば、「毎年アカデミーに飾ってあるわよー」と答えを返してくれた。 その後、ナルトはアカデミーに忍び込み、飾り立てられた笹を見つけ出すと、その傍にあった余ったものらしい短冊に願いごとを書いてこっそりと吊るした。 元担任のイルカに頼めば、きっと快く短冊を吊るさせてくれただろうが、誰にも願いごとを見られたくなかったのだ。 アカデミー生たちのたくさんの願いごとの中に、ひっそりと混ざったナルトの願いごと。叶うわけがないと知ってはいても、どうしても願ってしまう……。 ナルトは来た時同様、こっそりとアカデミーを出、家に戻るとそのまま眠りに就いた。
気づくと、アカデミーの近くにある公園の入り口に立っていた。 (あ、これってば夢だってばよ) 不思議なことに、それがすぐに判った。何となく、ナルトはずいぶんと久しぶりにその公園へ足を踏み入れた。下忍になってからというもの、ここに遊びに来ることはまったくなくなっていたのだ。 もっとちいさかった頃、来るはずのない迎えを待って、独りで揺られたブランコ。そこに、ひとりの子供が座っていた。他に子供の姿はない。そういえば、辺りはまだ明るいのに、まるで真夜中みたいに里中がシンとしている。 ナルトが首を傾げていると、不意にその子供が立ち上がった。「よし!」と勢いよく立ち上がり、ぐっと何かを決意するように拳を固める。 そして、くるん、とこちらを振り向いた。 「……イ、イルカ先生!?」 思わずそう叫んだナルトに、子供は不審そうな顔を向ける。その顔の真ん中には、大きな一文字の傷。高く結わえた髪がひょこりと揺れる。 その外見的特徴は確かに、ナルトをはじめて認めてくれた恩師・イルカと同じ。だが明らかに違うのは、いま目の前にいる相手は十やそこらの子供だということだ。 「お前、何してるんだ? 子供は家にいなさいって大人が言ってただろ」 子供は生意気そうに言い、ナルトはムッとして言い返した。 「お、お前だって子供じゃねーか!」 「ボクはいいの。いまからバケモノ退治に行くんだから!」 「バケモノって……」 そこでようやくナルトは気づいた。明るいと思っていたのは禍々しく紅い月の光の所為で、改めて周りを見まわせば、すでに深夜といっていい時間帯のようだ。 「とーちゃんとかーちゃんを迎えに行くんだ!」 子供はそう言って、まだ慣れぬ手つきでクナイを握る。 額当てもないし、どう見てもアカデミー生。ナルトより2〜3歳年下のように見える。バケモノというのが何かは知らないが、独りで戦地に向かおうなどナルトから見ても無謀極まりない。 「お前ってば、まだ忍者にもなってねーんだろ? おとなしく家で待ってたほうがいいってばよ!」 「うるさいなーっ。お前こそどうせまだ下忍なんだろ! そんなのボクだってすぐ追いついてやるんだからなッ」 すこし年上ぶってみたら、子供は可愛げのないことを言って、そっぽを向いた。どうやら何を言っても無駄のようだ。子供の頑固さに、ナルトも仕方なく折れた。こういうとこもイルカ先生にそっくりだってばよ、と溜め息をつきつつ。 その代わり、自分も一緒に行くことにする。それを申し出ると、子供はホッとしたように表情を緩め、「ホントは独りじゃちょっと怖かったんだ」と笑った。 並んで駆け出しながら、「名前は?」と訊くと、子供は「イルカ!」と応えた。やっぱりこれはイルカ先生らしい。変な夢だなーとナルトは思ったが、そこでハッとする。 「なあ。……バケモノって、何だってばよ……?」 恐る恐る問えば、イルカと名乗った子供は「何を訊くんだ」という顔をし、答えた。 「九尾の化け狐に決まってんだろ! 知らねーの!?」 その、瞬間。 ふたりの間を金色の何かが通り過ぎていった。一瞬後に風が起こり、数歩先で止まった影が振り返る。 「キミたち、こんなところで何をしてる? 危ないから早く家に帰りなさい」 「火影様!」 イルカが声を上げる。 ナルトは目を瞠って振り返った影を見上げていた。三代目の執務室に入り込んだときに見た、歴代火影の写真と同じ人だ。――――四代目火影。その腕に、彼と同じ色の髪をした赤ん坊を抱いている。 心臓がうるさく打ち付ける。 両親を迎えに行くと言う子供のイルカ。九尾の妖狐。そして四代目火影と赤ん坊。あまりにも符号が合いすぎている。 では、まさか。まさか、その赤ん坊は――――――。 四代目火影はナルトとイルカにもういちど家に帰るようにと注意すると、金色の残像を残して消えた。 それと同時に、ナルトの視界が不意にぐらりと揺らいだ。 ああ、目が覚めるのだな、と頭の中の妙に冷静な部分が考える。イルカと一緒に、イルカの両親を迎えに行ってやりたかったのに。 異変に気づいたイルカが何かを叫んでいる。それを遠く聞きながら、ナルトの意識は徐々に薄らいでいった。
「…………ヘンな夢見たってばよ」 自室のベッドの上でいつもどおりに目覚めたナルトは、ボリボリと頭を掻きつつそう呟いた。 カーテン越しに差し込む朝の光が、枕の下に何かの影を映す。何だろうかと探ってみると、長方形の紙が出てきた。そこに書かれた文字を見止めて、ナルトは絶句した。 「何でこれがここに……」 昨日の夜、アカデミーに飾ってある笹に吊るした、ナルトの願いごとの短冊。 『とーちゃんに会いたい。』 叶うはずのない願いを、夢とはいえ叶えることができた。短冊が何故ここにあるのかは謎だったが、ナルトは気分が良くなり、今日はイルカに一楽のラーメンを強請ろうと思った。 夕刻、七班の仲間たちと別れたあとアカデミーを訪ねると、笹はすでに片づけられていた。 何となく寂しく思いながら、イルカを探す。 「イルカ先生ーっ。ラーメン食べに行こうってばよ!」 「おう、そうだな久しぶりに行くか」 すぐに見つけた後ろ姿にそう声をかけついでに飛びつくと、衝撃にすこしよろけたイルカは、しかしにこにこ笑って頷いてくれた。 何だか、イルカもどこか機嫌がよさそうだ。いつもなら、ひと言くらい何か説教めいたことを言われるのに。 イルカの仕事が終わるのを待って、ふたり並んで一楽へ向かう。と、隣でイルカが不意にくすりと笑いを漏らした。 「? なんだってばよ?」 何がおかしいのかと問えば、イルカは口元を押さえて「悪ィ」と言い、 「やっぱ似てんなーと思ってな」 「なにが?」 「いや、昨夜な。子供の頃の夢見たんだよ。その時に偶然会った下忍がなぁ、思い返してみるとお前にそっくりで」 変な話だよなあ? と言いながらも、イルカはくすくすと笑っている。 ナルトはただ驚いて、イルカをじっと見上げた。 昨夜見た夢。 自分が見た夢にも、子供のイルカが出てきた。ただの夢だと思っていたのに、イルカの過去にも自分に似た存在が実在したと言うのだ。 「……へへっ」 何となくイルカと繋がっている気がして嬉しくなって、ナルトも笑った。どういうことなのかは判らない。でも、あれがただの夢でないならいい。 「ん? 何だ、お前までなんで笑ってんだ?」 「ひーみつ! だってばよ!」 何だそりゃあ、などと言いながらイルカが不思議そうにナルトを見ている。その表情が、夢の中で見た子供と一緒で、ナルトはまた笑った。 そう、秘密だ。 ――――俺と、ちっさいイルカ先生との、な!
それは、七夕の夜の、奇跡だったのかもしれない。
おわり
みどり様からリクエストいただきました。 これもweb拍手のメッセージから頂いたんですが、 三択で、これを選びました。 と言っても、あまりリクの原型を留めていないかもですが…(死) でもでも、これがバーって頭に浮かんできたんだもん!!(>_<) しかしこれもまた、長い…。 時期的に、順番すっ飛ばして真っ先に書くべきネタでしたね。 旧暦で考えて、先取りネタってことにしてください(強引な…) そんなわけでみどり様、ふたつもリクありがとうございました。 こんな話で、いかがですか?(汗) とりあえずどうぞお納めくださいませm(__)m '05.08.01up
|
※ウィンドウを閉じてお戻りください※