公 認



 訳が判らなくなると、ゾロは奔放に声を上げる。何度も俺の名前を呼ぶ。
 掠れて甘えるようなその声は、ずいぶん低くなったと思っていたのに、あの頃と変わらなくて。
 俺を、煽る。
「あ…あぁっ……も……サ、ンジさ…ぁん」
 ぎゅう、と弱々しい力でしがみついてくる腕も、俺の腰に絡みつく脚も。がっちりとして、すっかり『男』のそれなのに、

「ゾロ。かわい」

 たまらなく愛おしくて、ピアスの並んだ左耳に歯を立てた。俺、Sだし。
 きつめに噛みつくと、ゾロの身体がびくんっと強張って、俺の髪を引っ張ってきた。
「……何?」
 結構な力で引っ張られた頭皮が痛んだのと、行為を中断させられたことに少々ムッとしつつ訊ねれば、ゾロは潤んだ目を揺らし、俺の髪を掴んでいた手でピアスに触れた。
「だめだ。こわれちまう……から」
 舌足らずにそう言って、大事そうにピアスに触れる指。否、大事なのだ。宝なのだ、きっとゾロにとっては。俺がやった、大して高価とも言えない小さなそのみっつの石が。
 俺は、ゾロの手首を掴んでそっと耳から外させ、さっき噛みついたところにキスをしてやった。
 ふるっ、と今度は小さく震えて、俺に向けられるのはキレイなままの瞳。
「――ガラス玉じゃねェんだ。ちっと歯ァ立てたくらいで割れたりしねェよ」
「でも、」
 反論しかけたのを、それに、と遮って。
「また、他にも買ってやるよ。今度は首輪じゃなくて、恋人へのプレゼントとして、な」
「……サンジ、さん」
「お前なら紅も似合いそうだな。俺とおそろいの、作るか?」
 おそろいじゃないのかと少しがっかりしていたあの頃のにゃんこを思い出してそう言うと、ゾロも同じことを思い出したのだろう、真っ赤になった。俺を呑み込んだままだったアナルが、きゅうっと締まる。
 さっきから、反応するたびに俺を締め付けてくるそこに、実はすでに結構ギリギリだった俺は、話は終わりとばかり行為を再開した。
 ぐ、と深く腰を進めると、完全に不意打ちを食ったゾロがえらく可愛い悲鳴を上げた。
「やっ、あんッ、ちょ……まて…って、イキナリっ……あぅっ」
「可愛い声。もっと聞かせて」
 ゾロ、と耳元に囁けば、それだけでビクビクと跳ねる身体。
「かわいく……なんてねェっ! や……、しゃべんなぁっ」
 ほろりと涙が零れて、それでも睨みつけてくるまなざしは毅い。こんな時でも。
 そして俺は、いつもその目にゾクゾクする。
「触ってもねェのに、しゃべっただけでも感じんの。大変だなァお前、あちこち性感帯だらけで♪」
 ふっ、と息を吹きかけてやったら、また甘えたような声が上がって。
 きりがねェな、と内心苦笑する。
 もう、何度目になるんだか。ついてくるこいつも若いとはいえ大変だろうが、俺のこいつに対する欲ときたら、本当に際限がなくて。できるものなら何日でもこうして抱いていたい、なんてクレイジーなことを思うほどだ。

「なっ……なァっ、もぉ…終わって……っ。おかしくなる…からぁっ」

 ゆさゆさと揺さぶって、弱点のひとつである乳首を捏ねまわしてやるうちに、ゾロがとうとう限界を訴えた。
 おかしくなったとこも見たい、けど。
 明日は俺も開店準備に忙しく、こいつも今日サボった分バイトや大学にも行かなきゃならないわけだし。仕方ねェな、と溜め息をつく。
 イッた途端、ゾロが失神してしまったのには、そこまで無茶をやらかしたかと少しびっくりしたが。


 ――――びっくり度合で言うなら、そのあとのほうがクソとんでもなかった。

 

 

 

 でけェ図体のゾロを、さすがにもう抱えて風呂に入れてやる、なんてことはできなくて。
 濡れタオルで身体を拭いてやって、後始末をして――呆れたことに、その間ゾロは一度も目を覚ますことなくいびきまでかいて寝こけていた――、事後の一服、と煙草をふかしていた時だ。
 呼び鈴が不意に鳴って、俺は何も考えずインターホンで応答した、が。
「はい?」
『……え……どなた?』
 向こう側から、戸惑ったような女性の声。
 しまった。ゾロの客だ。俺が帰ってると知ってて、しかもここまで訪ねてくるような奴なんかいないのだった。
 三年間、ここで暮らしていたんなら、ゾロに来客があっても不思議はない。それが女性、しかもナミちゃん以外というのには引っかかりを覚えるが、かといって俺たちの場合、これが男であっても微妙だ。
 すると、今までぴくりとも目を覚まさなかったゾロが、何故かインターホン越しの声に反応してがばっと起き上がり叫んだ。

「……くいな!!」

 それは、いつか聞いたことのある、ゾロの従姉の名だった。

 

 

「そう、あなたがこのマンションの持ち主の方なのね。ゾロがいつもお世話になっています」
 ショートカットの似合う気の強そうな美女は、そう言ってぺこりと頭を下げた。
 あれから二人して大慌てで身支度を整え、彼女を迎え入れた。道場に行く予定をサボらせたので、心配して様子を見にいらしたのだ。
 彼女にお茶を出しながら、俺は内心ビクビクものだった。何というか、ゾロに少し似た毅いまなざしが、何かを押し量ろうとするかのように俺をじっと見ているのだ。
『うちのゾロによくも手を出したわね!』なんて斬りつけられたらどうしよう、なんてちょっと現実味の薄い恐怖感を感じる。ゾロ同様、相当に腕の立つ女剣士だと聞いたからだろうが。
 しかし、彼女は予想に反し、にっこりと俺に笑いかけた。
「私が言うのも何だけど、剣のことばっかりで恋愛になんか興味ないんじゃないかって心配してたけど……余計なお世話だったね」
 ゾロのこと、これからもよろしくお願いします。そう言って彼女はまた頭を下げた。
 真っ赤になったゾロが、余計なこと言うな!と怒鳴ったが、いやいや。それでいいの……?
 思いのほか度量の大きい彼女により、何故か俺たちは公認の仲になった。

 ……いやいや。
 ホントにそれでいいわけ?

 

 

 

 彼女に夕食をご馳走し、道場までゾロに送らせて、俺はぐったりしていた。
 時差ボケより、やりすぎたセックスより、この約二時間のほうがよほど疲弊したと感じるのは――気のせいではないだろう。

 

 

 

                              ――――END

 



瑠璃様からリクエストいただきました。
男娼サンジさんとにゃんこゾロのその後の話です。
っていうか、オフ本収録の書き下ろしのその後、です(^^ゞ
むしろ18禁でも…とのことでしたが、
そもそもそっちに流れやすいネタなので、自然と(笑)
てか、ホント遅くなってしまってすみませんでした!!
瑠璃様、リクありがとうございました。
こんなではありますが、どうぞお納めくださいませm(__)m
'10.07.05up


 

 

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