やきもちどっち「ゾロー! お昼食べようっ」 いつもこのタイミングで訪ねてくる男。すでに恒例となった訪問に、入れ違いで教室を出ていく教師ももはや何も言わない。 ただ、大声で呼ばれた相手だけが、毎日のように飽きることなく男に食ってかかる。 「っるせェんだよ毎日毎日ッ! でけェ声であたしの名前呼ぶんじゃねェ!!」 ばしん、と机を叩いて勢いよく立ちあがり、真っ赤な顔で怒鳴る女生徒。彼女の反応もまた、このクラス内では恒例行事の一環であった。 「まァまァ、いーじゃないのよラブラブで♪ それにサンジ君のお弁当毎日食べられるなんて、羨ましいわァ」 しかもただで、と指で輪を作って見せるのは、ゾロの前の席に座るナミだ。 家がレストランで、料理部部長も務める彼は、料理の腕前も当然そうとうなもので、その彼の手作り弁当はナミならずとも羨ましく思う者はいるのだ。 からかわれたことに真っ赤になったゾロが、今度はナミに怒鳴ろうと口を開いた。が、それを遮るように、 「あァ〜ナミさんッ。今日もお美しい!! ボクの弁当が食べたいならそう言ってくれれば、君の分も用意したのにィ〜♥♥」 「…………」 身をくねらせてナミに愛想を振りまくサンジに、ゾロが目を据わらせ、ナミがあーあと呆れかえった様子でため息をついた。 ゾロは無言で席を離れ、ドアのほうに向かった。 「ゾロ。……アレは病気なのよ。本気じゃないんだから、拗ねないのよ?」 「……わかってるッ」 その後ろ姿にナミが静かに声をかけ、ゾロは吐き捨てるようにそう答えた。 ナミにそう言われてしまえば、サンジを突き飛ばしてこの場を去る、というのが大人げないように思えてできない。腹が立つのは確かだが、サンジの病気ももう今更なのだ。ここはあたしが大人にならねェと…とひとつ息をつく。 この、どうしようもない病気持ちの男を、そうと知ってなお受け入れたのは自分なのだから。 「ゾロっ、今日は屋上で食べよ?」 戸口に近づくと、何事もなかったかのような笑みを浮かべたサンジが、当然のように手を差し出し、ゾロはその手を取った。 「じゃあ、こいつ借りてくね、ナミさん♥」 「ヒトをモノみてェに言うなっ」 そんなことを言いつつも仲睦まじく手をつないで行ってしまうふたりを見送り、ナミはまた大きく溜め息を吐きだした。 結局のところ、ただのバカップルなのよね、あいつら。
女と見れば誰彼構わず愛想を振りまくサンジと、男勝りで硬派(?)なゾロ。実はふたりは、校内では知らぬ者などいない、というほど有名なカップルだった。 そもそもは、入学式の日、ゾロに一目惚れをしたサンジが猛アタックを仕掛け、そのしつこさにゾロが折れて付き合いが始まったのだが。 ――――こいつって、本当にあたしに惚れてんのか……? 女生徒垂涎の的である(??)サンジの手作り弁当を突きつつ、ゾロはちらりと隣を見遣る。サンジは黙々と箸を動かしていたが、ゾロの視線に気づくとにっこりと笑った。 「ゾロ、どう? 今日のは特別クソ美味いだろ?」 「あ……あァ。美味い」 「だろだろっ? 昨夜から仕込んでおいたかいがあったな〜」 にこにこと上機嫌に言うサンジからふいと目を逸らし、ゾロは忙しなく箸を使う。その様子にサンジは少し首を傾げたが、とりあえず再び弁当に向かった。 互いに無言のままの食事は、あっという間に終わってしまう。 「……ごちそうさま」 空になった弁当箱をサンジに渡すと、サンジは「お粗末さま」と笑って、自分のと一緒に弁当用に使っているバッグに仕舞い込んだ。 そのまま、何となく気まずさを感じたゾロが教室に戻ろうと立ち上がりかけたところを、サンジの手が引き止めた。 「どうしたの、ゾロ。何で今日は俺のほうちゃんと見ないの?」 「べ、べつに……何でもねェ」 「うそ。教室でも様子が変だったし、屋上来てからまともに話してもくれねェじゃん」 ずい、と顔が近づいて、ゾロは避けようとしたが、頬を押さえられて叶わない。 片目を前髪で覆った個性的な髪形、端が渦を巻く奇妙な形の眉。 深い、海の底のような瞳。 女たちにへらへらしている時とは違う、まっすぐで強いまなざしに、耐えられずゾロは目を瞑った。 「ゾロ?」 少し、不安げな声。サンジの大きな手が、頬をそっと撫で、離れていく。 ――――あァ、もう。 ゾロは観念して口を開いた。 「おまえはっ、あたしなんかといるより、ナミとか他の女といるほうが楽しいんじゃねェの……」 「…………何で?」 心底不思議そうな声音に目を開けば、触れんばかりに近づいたその表情は、声のままのそれで。 「だって、教室でも……ここに来るまでだって、他の奴らに……」 もごもごと、言いづらそうに答えたゾロが最後まで言い終える前に、ゾロはサンジの腕に抱き竦められていた。 「なっ……!?」 「ゾロっ、可愛いっっ!!」 ぎゅうぎゅうと力任せに締めつけられ、圧迫された胸が苦しくてゾロは目を白黒させる。 そんなゾロの様子には構わず、サンジはいきなりゾロの唇を奪った。 「―――っんんっ」 呼吸まで奪われ、息苦しさに不自由な体勢でもがくが、サンジはすっかり興奮しているらしく一方的なキスを続ける。 舌をねじ込まれ口腔内を荒々しく探られて、ゾロの目に涙が滲む。苦しいのだが、よく知ったキスは、それだけでない感覚をゾロに与えてくる。くらくらと眩暈がするのは、もはや苦しさのためだけではなくなっていた。 が、サンジの手が薄い制服越しに胸を掴んできて、さすがに慌ててキスを振りほどいた。 「ば…かっ。何考えてんだ学校だぞ!?」 「こんなとこ、だれも来ないよ……」 「そ、そーゆー問題じゃ……あッ、こら……!」 べろりと首筋を舐め上げられ、服の中に入り込んできた手に膨らみを持ちあげるように揺らされて、ゾロの抵抗はか弱いものになっていく。 「ゾロのおっぱい、相変わらずすげェボリューム♪ だいすき」 「――っサンジ、やめ……っ」 サンジの言葉に真っ赤になり、その腕を掴む。けれど解きたいはずのそれは、ただ震えて力なく爪を立てるので精一杯で。 そりゃ、あたしが女らしいとこなんて、胸くらいしかねェけど。 判っていても、こんなふうに言われると。 「あ、あたしはお前の何なんだよッ……す、すぐこんな……こんなことばっかりっ……」 ブラジャーを外して乳房を直接揉んでいたサンジの動きが止まる。 驚いたように顔を上げ、泣き出しそうに歪んだゾロの表情を見止めると、慌てて宥めるような抱擁をする。先ほどと違い、あたたかさだけを伝える腕に、ゾロはほうと小さく息をついた。 「ご、ごめんゾロ、やだった? だって、お前があんなクソ可愛くヤキモチなんかやいてくれるから、つい盛り上がっちまって……」 「かっ、可愛くなんかねェ! あたしはっ……」 周りから男女だとか、女のくせに生意気だとか、そんなふうにばかり言われてきた。 ナミみたいに女らしくも、彼女の友人のビビみたいに女の子らしくもない。 なのに、 「可愛いよ、ゾロは。誰より一番。だって……女の子たちはみんな可愛くて魅力的だけど……俺がこんなことしたいと思うの、ゾロだけなんだから」 嘘だ、と震える声で反駁しかけたのを、サンジは触れるだけのキスで遮った。 「嘘じゃないよ。ゾロは誰より可愛くて美人で色っぽいんだ。ゾロの悪口言う連中だって、本心じゃゾロに惹かれてる。だから俺はいっつも気が気じゃない」 俺のほうが、いつだって嫉妬でいっぱいだ。 そう言って、サンジは苦笑した。 サンジの言葉を真に受けるわけじゃないけれど。 「…………ばか」 ゾロは小さく呟いて、サンジの胸に頭を預けた。
このあと。 結局5限目をサボる羽目になったふたりは、察したナミに散々からかわれ、 「もう絶対っ、学校じゃヤんねェからな!!」 「ええ〜〜〜そんな、ゾロぉ〜〜〜〜」 更に恥ずかしい痴話げんかを目の前で繰り広げ、呆れられることとなったのだった。
――――END
駄犬様からリクエストいただきました。 ゾロ女体化で、学園パラレルとのことでした。 ノリノリだったんですが(…)、エロに到達できず(>_<) 相方に、「女ゾロたんが可愛くヤキモチやく話v」と 開き直って解説したら、「ほんとだ可愛い…」と感想が(笑) エロが微妙でホントすみません!!(えろえろうるさい) 駄犬様、リクありがとうございました。 こんなではありますが、どうぞお納めくださいませm(__)m '10.05.30up
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