TOY&BABY情報を仕入れてきたナミは、比較的平和な島だけれど海軍船を見かけたので船を留守にするわけにはいかないと言った。 だから、特に上陸してしたいことのないゾロが、船番を買って出ようとしたのだが。 「あら、駄目よ」 何故かナミに、止められた。 ナミはにっこりと笑い、「あんたは私の買い物に付き合うんだから」とキッパリ言い切った。 そして、ウソップとチョッパーのコンビとサンジとが交代で船番に当たるよう命じた。 「ただし、サンジ君は食料の買い出しをしなきゃだから、それは先にきちんと済ませておいてね。あと、宿代がもったいないから、夜は船で過ごすわよ。船番以外は、それまで自由行動。いいわね?」 「あーい、ナミさんっ♥」 「あ、それとロビン。悪いけど、ルフィを見張ってて。ひとりで放すと、またどうせ騒ぎ起こすんだから。ルフィ、あんたはよく考えてお金使うのよ、次の島までもうお小遣いは出さないからね」 「失敬だな、ナミ」 「ふふふ。判ったわ」 きびきびと指示を出すナミに、目をハートにして過剰な愛想を振りまきつつ返事をするサンジ。ナミの言葉にむくれるルフィと笑って頷くロビン。 ウソップとチョッパーは船にいる間それぞれの研究に勤しむことに決めたらしい、早々に店を広げ始めていた。 ひとり、納得がいかないのはゾロだ。 どうして自分が、ナミの買い物になど付き合わねばならないのだ。買い物をしたいならロビンと女同士で楽しめばいいし、荷物持ちが欲しいならルフィも連れて行けばいいはずだ。 なのに何故、そのロビンにルフィの守をさせてまで、わざわざ自分を連れて行こうというのだ。 ムッとした表情で黙り込むゾロに、ナミはニッと笑った。サンジ以外の男連中を怯えさせることのできる、魔女の笑みだった。ゾロは思わず硬直する。 そんなゾロの肩に手をかけたナミは、その笑みのまま、ゾロの耳に囁いた。 「そんな顔すんじゃないわよ。あんたのものも買うのよ? 私のおごりでね。プラス、最後までちゃんと付き合ったら、借金一割引いたげる」 珍しいナミのおごりという言葉に疑問を覚えつつも、知らぬ間にどこまでも膨れ上がる借金額が引かれると言うので、ゾロは不承不承頷いた。 実際は、借金など肉体労働時の口実にしか使われることはなく、端から回収する気などナミにはないのだが、それをゾロが気づくことはなかった。
妙にウキウキと楽しげなナミに手を引かれ、町中を歩く。 最初に手を掴まれたときには、みっともねェから止せ、と断ったのだが、「じゃああんた、腕組むのとどっちがいいのよ」とおおきな瞳に鋭く睨まれ、つい押し切られてしまったのだ。 何故そんな二択しかないのか、ということには、思い至れなかった。どこまでも、ナミには逆らえないらしい。 しばらくムッツリとしながら引かれるままに歩いていたゾロだったが、そのうち周りの雰囲気がおかしいことに気づいた。 やたらと酒屋が立ち並ぶ界隈に差し掛かっている。それも、例えば今頃市場で食料の買い出しに忙しいコック辺りが女を連れて行きそうな、小洒落たバーのような店が多い。そのうちには、明らかにそれと判るような連れ込み宿までが目に付くようになって、ゾロは眉を顰めた。 ナミの買い物とは、こんな如何わしい場所に用があるようなものなのだろうか。 さすがのゾロも、嫌な予感がしてきた。 確かに、ナミとは深い関係を持っている。世間一般では恋人、と言っても良いような間柄だ。流された形ではあれど、ゾロもその辺りは自覚している。 ただしふたりの場合、ごく普通の男女間でのそれとは大きく異なっていることも、一応、気づいてはいた。 だから、女にこの辺は物騒だとか、周りからどう見られているかとか、そんなことよりも。 やばい。俺、逃げたほうがいいんじゃ……。 男として情けない思いに囚われつつ、思わず歩調を緩めたゾロに気づき、ナミが振り返って笑う。 「バカね。宿代がもったいない、って言ったでしょ。連れ込んだりしないから安心なさい。第一、こんな下品なホテル、私の趣味じゃないわ」 絶対おかしい。女のセリフとして、何かが間違ってる。てゆーか、そんなことを言われてホッとしてる俺も絶対に変だ――! ゾロは心中でそう喚いたが、ホラ早く、と手を強く引っ張られ、仕方なくナミに再び歩調を合わせた。 どんどん薄暗いほうへと道は通じている。ナミ曰く下品なホテルの質も、徐々にレベルアップしている。もちろん、下品さが、だ。ぽつりぽつりと、風俗店も確認できる。 こんなところで買えるものなど、女ぐらいしかゾロには思いつかない。 実は買い物は口実で、こいつは自分がうろたえるのを見て楽しみたいだけなのでは、とゾロは勘繰り始めていた。 だったら思惑通りになるのは癪だ。大体、ひとりでならこんなところ、素通りするくらい全然平気なのだ。堂々としていてやる。 ゾロがそう決意して、知らず俯きがちだった顔を上げたとたん。 「―――ああ、あった。ここよ、ゾロ」 ナミが少し浮かれたような声で言うのに、彼女が指差すほうへ視線を巡らせたゾロは、本気で逃げ出したい衝動に駆られた。 ナミが探していた店。 それは、所謂大人の玩具を専門的に取り扱っている店だったのだ。
何考えてんだ、何考えてんだこの女! ありえねェ、こんなとこで何買おうってんだ……ッ! あまりのことに罵倒の声も出せずに呆然としているゾロの手を引いたまま、ナミはさっさとその店のドアを開けた。ゾロが我に返ったときには、悪趣味な照明に煌々と照らされ、直視したくもないような品々がずらりと並ぶ店内へと連れ込まれてしまっていた。 店内では、何組かのカップルが、楽しげに品定めをしている。普通に男女のカップルもいれば、男同士、女同士もいる。まだ昼間だと言うのに、どういうわけか意外にも賑わっていた。 ナミが迷いなく向かったコーナーには、うわああと叫んでその場にうずくまりたくなった。本気か。本気なのかこの女っ! ひどく情けない表情をしていたのだろう、ナミはゾロを振り返ると、ふっと労わるような優しげな笑みを向けた。 そしてその笑みのまま、毒々しい色をしたグロテスクな棒状のものを、容赦なくゾロの眼前に突きつける。 「ホラ、好きなの選びなさい。買ってあげるって言ったでしょ。――あんたの中に入るモノよ?」 ナミの声はさほどおおきなものではなかったが、周りが一気に静まり返った。好奇に満ちた幾対もの目に注視され、ゾロはもう涙目だ。 ナミは構わず、やたらと巨大なものや、イボの付いたものを珍しげに手に取り、スイッチを入れてみたりしては、「これはあんたには無理かしら」などと呟きつつ具合を確かめている。 ナミが男だったら、まだ諦めもついた。男同士であるならば、どちらかが女役をしなければいけないわけで、その立場が自分にまわってくるとしても仕方がないと思う。 ところが自分たちは、男と女でありながら、何故かその立場が逆転してしまっているのだ。 未だに疑問に思わずにはいられない、彼女との関係。それでもこれまでは、彼女を大切に思うからこそ、男としての矜持を捨てても望むようにしてやっていた。彼女の望むままに、受け入れていた。 ――――しかし。 「試着室ってないのかしらね」などととんでもないことを言って笑っているナミから、ゾロは今度こそ心底逃げ出したいと思った。剣士の恥など知るものか。このままここで晒し者になるより数万倍ましだ! もちろん、一度魔女に魅入られて、無事に逃げ果せるわけもなく。 ゾロはやがて諦めきった表情で、一番小振りでシンプルなものを選んだ。 だが、ゾロは忘れていた。 そもそもナミは自分の買い物目的でここへ来たのであって、ゾロに奢ったのはそのついでに過ぎなかったのだ。 ナミがこのときゾロが色々な意味で打ちのめされている間にこっそりと購入していた媚薬によって、ゾロが散々に泣かされるハメになるのは、ほんの数日後のことだった。
――――END
砂人英美様からリクエストいただきました。 毎回相方に一応リクを聞いているのですが、いつも私の好きジャンルでリクくれるので、 サンゾラーでもない相方からサンゾロリクをされるのは微妙だな、と思ったので、 「サンゾロじゃなくて良いよ」と言ったら、何故かナミゾロが来た(笑) しかも、最初コマ伊とルゾロの二択で悩んでたのにナミゾロになったらしい(何故…) 絵でも良いけど、文で書かせる気満々だったそうなので、文で頑張ったよ! 攻め攻めナミさんにたじたじゾロ、というのはクリアしてると思うけど…どうかな?(^^ゞ てゆーかこれは、傍から見たらSMカップルかしら…(死) ひでみん、リクありがとう〜!! プリントアウトしてくので、どうぞお納めくださいな★ '08.06.09up
|
※ウィンドウを閉じてお戻りください※