世界で一番君が好き?

 

 ケンカした。
 今回は思っきし自覚ある。100%、俺が悪いです。

「手塚手塚ぁ。今度連休じゃん? 遊ぼーよっ」
「あ……すまん。二日目は空いてるが、一日目はちょっと……」
 ムカ。
「にゃに、用あんの? 何? またおーいしと?」
「……いや。越前なんだが……」
 ムカムカッ。
「おチビ!? どして!! ダメダメダメっ。おチビとだけは、ぜ――――ったい外で会っちゃダメー!!」
「いや、しかしもう約束が……」
「断ってよ!! 手塚、俺の恋人でしょ!? 二日とも会いたいの、会うの!! 他の約束なんか入れないでよフツー恋人優先だろー!?」
「菊丸………」
「俺よりおチビとの約束取るんなら別れてやる! もー手塚なんかキライだ――――!!!」
「…………」

 メッチャクチャなこと言った、とは思ったけど、どーしてもどーしても、ガマンできなくて。
 手塚は困ったカオしたけど、その後おチビに謝りに行ってくれた。
 優先順位とか約束とか、そーゆーのをすごく大事にする手塚が、俺のワガママ聞いて、それを曲げてくれて。
 愛されてるーって思って、すごく幸せだった。その場でソッコー、二日間の予定を組んで改めて約束を取り付けた。手塚も、楽しみにしてるって言ってくれた。
 ――――――――問題は当日だ。

 

 

 前日の夕方、部活の後。
 次の日が休みだからって、桃と不二とおチビの四人で、夜遅くまでカラオケして。歌い疲れたのとちょこっと飲んだアルコールの所為で、家に帰るなり着替えもせずに眠り込んで。
 目が覚めたら、手塚との待ち合わせ時間の午前十時から、既に2時間も過ぎていた。
 で、枕元に置いていたケイタイには、何回も何回も公衆電話からの着信が。
 いくら何でももう待ってるワケないと思ったけど、俺は皺だらけの制服だけTシャツに着替えて、顔も洗わずいつもはきっちりセットしてる髪も寝癖だらけのまま、家を飛び出した。
 約束の時間から二時間半を過ぎて、やっと辿り着いた待ち合わせの駅の前。
 ベンチに座ってるコイビト発見。
 息切らしてその前に立つと、手塚は一瞬ホッとした表情をした後、すぐに俺を睨みつけてきた。
 謝ろうと思って口を開きかけた時、手塚はスッと立ち上がって、スタスタ歩いていってしまった。方角は、手塚んちの方。
 声を掛けそびれたまま、俺はその後を追っかけて。
 家に着いて、目の前でドアを閉められても、俺は何にも言えなかった。

 あれから一時間。俺は帰ることもできずに手塚の家の玄関の前に座ってボーっとしてた。
 手塚が怒るのは当たり前。あれだけムチャ言って、ムリヤリ約束させたのは俺のほうなのに、その俺があんなとんでもない大遅刻しちゃったんだから。
 しかも、俺を見た時の一瞬のあの表情。
 怒らせただけじゃない、きっとメチャクチャ心配させた。
 俺は思わずハーッ、と思いっきりでっかい溜め息をついた。謝ることも出来なかった自分が情けない。
 ゴメン。ゴメン。手塚、ゴメン。
 どうしてすぐにそう言って、抱き締めなかったんだろう。

 更に一時間が過ぎた。
 俺はまだ玄関の前に座り込んでいた。陰になってるから幾分マシだけど、かなり暑い。流れる汗を手で拭う。
 呼び鈴を押そうと何度も立ち上がって手を伸ばしかけたけど、結局できずにその場にまた腰を落としてしまう、その繰り返し。
 朝飯も昼飯も食べてないけど、ちっともお腹は空いてない。考えることは、きっとまだメチャクチャ怒ってるだろう恋人に、何て言って謝ろうって。それだけ。
 昨日から着けっ放しの腕時計を見ると、俺がここに座り込んでからもうすぐ二時間半が経とうとしていた。
 もう何度目かも判らない溜め息を吐いた時、いきなり玄関のドアが開いた。
「いつまでそうしてるつもりだ」
 のろのろと顔を上げると、呆れ果てたと言わんばかりの表情で見下ろしてくる恋人。
「てづかぁ……」
 ふにゃ、と顔が歪む。目の前がぼやける。うわ、もしかして俺、泣いてる? カッコ悪い、サイアク。
 手塚はやれやれ、と言うように溜め息をついた。
「……とりあえず、入れ。そんなとこにいつまでもいられたんじゃ迷惑だ」
 ううっ。メーワクだって。ますます泣きたくなったけど、俺は頷いて立ち上がった。オジャマシマス、と小さな声で言いながら中に入ると、そこはやけに静かで。
 確か、手塚んちはいつもお母さんが家にいるハズ。だけど、今はその気配もない。
 不思議に思ってキョロキョロ周りを見回すと、手塚が俺のほうを見ないまま言った。
「家には誰もいない。帰って来るのは明日の夕方だ」
「………………え」
「俺は怒ってる」
 硬いまんまの手塚の声に、思わず俯く。ゴメンナサイ、そのたった一言がノドに引っかかって出てこない。意地を張ってるつもりはない。ただ、本当に声にならないのだ。
 本当に本当に悪いことしたって思った時に限って、言葉はスルッと出てきてくれないものなんだ。
 けど。
「越前に無理を言って、二日目じゃなく一日目にしてもらったのに」
 へ?
「お前のことだから、家族が留守だと聞けば来たがるだろうと思って。夜にはお前を呼べるように、昼間だけならと念を押して……それなのに」
 らしくなく、俺の返事を一切待たずに喋り続ける手塚に、俺は知らないうちに俯けていた顔を上げていた。
 てゆーか、ちょっと待って。
 にゃんか……すっっげく俺を調子付かせるよーなこと、言ってマセン? 手塚さん。
 だってつまり。それって。
 最初から今夜、俺を泊めてくれるつもりで……二人っきりで……つまり、そーゆーコト、でしょ?
 けど、手塚は舞い上がりそうになった俺を冷めた目で見て、思いっきり突き落としてくれた。
「……なのにお前は子供みたいにワガママ言った挙句、大遅刻するし」
「ぐっ………ゴ、ゴメンナサイ」
 今度はポロっと零れた『ゴメンナサイ』。それでホッとしちゃった俺は、思い切って手塚に手を伸ばして、ぎゅうっと抱き締めた。
 あとはもう、意識しなくても言葉が勝手に溢れてくる。
 ゴメン。許して。モウシマセン。ホントにゴメン。好き。大好き。
 力いっぱい抱き締めて、何度もキスして。
 しばらくして、手塚の手がそぅっと俺の背中にまわってきて、深いキスを許すみたいに少しだけ唇が開かれた。
 何でかいつもみたいにうまく息が継げなくて、苦しかったけど離れたくなくて、ムキになって酸欠寸前までキスを続ける。
 やっと離した唇は、何だか自分のじゃないみたいに痺れて、熱くて。それでももう一回、と近づけたら手塚の手がそれを遮った。
「……とりあえず一旦帰って、用意してこい。続きは、それから……だ」
 言われてみれば、大慌てで家を出た俺は、ポケットに突っ込んだままの財布しか持ってない。
 俺はすぐ戻るから待っててね、と言って大急ぎでお泊まりセットを取りに家に向かった。………今日はよく走る日だ。自業自得、にゃんだケド。
 それでも。
 手塚が俺のこと、許してくれたのが判ったから、それでいいや。

 少し遅れたけど、いい連休になりそうだ、と思って俺は嬉しくなった。

 

 

「しかし。わざわざ休みの日に俺に話があるなんて。越前の奴、意外に部活熱心だったんだな」
 ベッドの中で、ふと思いついたように手塚が言って、首を傾げる。
 ………………んなワケ、ないだろ。
 思わずガックリとベッドに沈み込みながら、俺はちょっとだけ。ホンットーにちょこっとだけ、だけど。おチビに、同情した……。

 

 

 



麻衣様からリク頂きました。
タイトルの?は、別に文字化けじゃないです(笑)
平井堅のアルバム曲より。…アレはちょっと疑わしいけど(死)
結局菊は手塚が大好きで大好きでタマンナイ、と言うこと。
何かケンカとゆーかアレですが、
オチはかなりラブなので許してください!
隠れテーマ(?)は、何気に誘う手塚(笑)
リクエスト、ありがとうございました!!


 

 

モドル