It's too late.最近すっかり付き合いの悪い、というか誘いづらくなった幼馴染みは、先ほどから妙にハイペースで杯を空けている。 記憶の限りでは大して強くはなかったはずで、見かねて止めようとした時、爆弾は落とされた。 「俺、アスマさんのこと好きですよ」 すでに強かに酔っ払ったイルカが、ふにゃりと笑ってそんなことを言ったのだ。 馬鹿なことを、俺は笑い飛ばした。 イルカがカカシと付き合っていることは、カカシと少しでも交流のある上忍なら誰もが知っていることだ。 『俺、アカデミーのイルカ先生とオツキアイすることになったから』 手ェ出したりしたら殺すよ、と牽制付きの報告を、俺も受けた。いつもは眠そうな半目が、その時は無表情に俺を見据えていて、ひやりと背を冷たいものが走ったものだ。 「俺ぁまだ殺されたかねーよ」 イルカはふふふ、と楽しそうに笑った。とろりとした潤んだ瞳で、俺を見上げてくる。乱れてほつれた前髪を、気だるげにかきあげる。酒に濡れた唇を舐める赤い舌。 無意識かもしれないが、それらの仕種がひどく艶っぽい。 誘ってると思われて襲われても、文句は言えねえぞ。 「……アスマさんはぁ。カカシ先生のこと、俺より前から知ってるんでしょ?」 グラスを揺らしながら、笑顔のままイルカがそんなことを言い出した。カラン、と氷が軽やかな音を立てる。 「ガキの頃何度か顔合わせたくらいだ。奴が暗部にいた間のことは知らねえよ。あとはここ一、二年の付き合いってとこだ」 「それでも。俺なんかよりずーっと、あのひとのことよく知ってますよね……」 ふと、陽気だったその笑みが寂しげなものに変わる。 俺は思わず顔を顰めた。 「………言っとくが。カカシとナンカあったなんて下手な勘繰りはすんなよ?」 気色悪ィ、と吐き捨てれば、アハハとイルカが声を上げて笑った。 別に冗談で言ったわけではないが、妙な誤解をしているのではないと判ってホッとする。 他のどんなのと寝ようと、アイツだけは御免だ。単純に趣味じゃないのもあるが、そんなおっかねえ真似をする気になどなれない。 女ならばじゃじゃ馬ならしも楽しかろうが、わざわざ男を相手にするのならもっと、何と言うか……可愛げのあるのがいい。かといって、淫売みたいなのも御免こうむる。 従順で、それでいて芯がしっかりしていて、分を弁えていて面倒がなくて。けれどすれているのよりは初心な奴がいい。 男でも女でも、黒髪に黒い目。いわゆる美形タイプよりも愛嬌のあるほうが好みだ。 そう、例えば――――。 テーブルの上に上体を預け、組んだ腕に凭せ掛けた頭を傾けて俺を見上げてくる、黒い瞳。 俺を、信頼しきっているその、目が。 『好きですよ』 ――――この、性悪が。 俺は思わず苦笑した。自覚のないのがなおさら性質が悪い。 手を伸ばして、乱れた髪に触れ、意外に柔らかなそれをそっと撫でてやる。 カカシが高ランクの長期任務に就いて、半月。 「慰めて欲しいならそう言え。馬鹿」 俺の言葉に、イルカはぼろっと大粒の涙を零した。 カカシのこと以上に、俺はこいつを知っている。独り部屋の隅で膝を抱えていた、寂しがりのガキを。 「ごめんなさい、アスマさん」 「いーから泣いとけ、めんどくせえ。あんま溜め込むな、後がキツイぞ」 抱き寄せる俺の胸で泣くイルカは、知り合ったばかりの頃、両親を亡くした幼いあの頃のままで。 『好きですよ』 冗談にしたのは、俺のほうなのに。 いとしい、と。 欲しい、と。 血を吐き叫ぶ心を、俺は自らの手の中に握り潰した。
END
水月咲枝様からメールでリクエストいただきました。 カカイルベースで、イルカ先生を可愛がってるアスマ先生。 むしろアス→イルな感じで、とのことでしたが。 私、結構こういうの好きなんで、めちゃめちゃ楽しんじゃいました! 短くてスミマセン、でもこのほうが雰囲気出ていいかな、と(笑) フツーにアスイルのラブも好きなんですけどね、アスマ先生イイ男だし。 まあでも一応カカイラーなので…(一応、て!) ステキなリクをありがとうございました水月様! どうぞお納めくださいませm(__)m '06.04.17up
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