たからばこのほうせき

 

 部室にあるテーブルの隅に頬杖を突いて、俺はもうかれこれ三十分ほどボケっとしてる。
 さっきまでは乾もいた。帰る時、「お疲れ」と言いながら、何をするでもなくボーっと座り込んでる俺を、不思議そうに見てた。
 最初のうちは、そんなん今日でなくてもいいじゃん、とか、俺が待ってんの知っててワザとじゃねーの、とか思って腹立ててたけど、もう何かそんなんどーでもよくって。ただ、早く二人きりになりたいにゃ〜とか思いながら待ってる。今日はでも、それはムリそう。
 視線の先には愛しいコイビト、と、親友。
 二人は幼馴染みで、今は部長と副部長でもあって、すごく仲がいい。
 家が近いから、きっと今日はこの後三人で帰ることになるだろう。もう外は暗いし、俺と別れた後コイビトを一人で帰らせんのは――――たとえ俺より背が高くて大人っぽくても、だ――――やっぱ心配で。その点、アイツが一緒なら安心には安心。にゃんだケド。
 ずるいなぁって、やっぱ思っちゃう。
 二人が一緒にいた時間は、十年。俺はまだ、二年とちょっと。
 この差はとてつもなく、デカイ。
 待ちくたびれて欠伸を噛み殺しながら、何となく辺りを見回してから視線を戻すと、コイビト――――手塚が部日誌を開いていた。打ち合わせとかは、終わったみたいだ。その横に座った大石と、話しながらシャーペンを動かしてる。
 遅刻、一名。欠席はナシ。あはは、おチビまた遅刻したんだっけ。何であー毎日毎日遅れるかね。
 まったくアイツは、にゃんて手塚が書きながら呟く。まぁまぁ、って 大石が苦笑する。
 ―――――――――む。
 にゃ〜んか二人とも。俺の存在忘れてまセンカ!?
 かなりムッとしながら、でもとりあえず早く終わって欲しいので、黙ってることにする。そしたら。
「越前の奴。お前に叱られたいんじゃないのかな」
 大石がイキナリ、そんなことを言い出した。何言い出すんだよ!
 手塚は、手を止めて大石を見て、首を傾げた。ああ、またそんなむぼーびな顔して………あ、何かまただんだんムカついてきたぞ。
「アイツは走らされるのが趣味なのか?」
 ガッタン★
 俺は椅子からずり落ちた。
「何やってんだ。大丈夫か英二?」
 手塚の大ボケな返事を大石は実にナチュラルに受け止め、俺のほうへ笑いながら声をかけてくる。サスガ、十年の付き合いはダテじゃないってか?
 ――――――まあ、手塚のこのニブさは正直助かるけどね。何しろ、めちゃくちゃストレートなおチビのアプローチにも一切気付いてナイんだから。もうここまで来ると天才的だよね!………何のかは知らにゃいけど。
 手塚はちょっと困った顔になって俺を見て、それから大石を見た。
「今、俺は何かおかしなことを言ったか?」
「いいや? いいんだよ、そこがお前のカワイイトコなんだから」
 にっこり笑って、大石が言った。俺が思ったこと、そのまんま。
 ――――――っておーいしぃ!? 何言ってんのちょっと!!
 ビックリしたみたいに瞬きした後、ぱぁーって、手塚の顔が赤くなる。
 三ヵ月、四ヵ月前だったらこんなこと思わなかったし、そもそもそんな権利もなかった。
 けど。
 今、は。
 俺は立ち上がって大石の後ろに回り込んで、大石の目を手で隠した。
「うわ……、英二ッ?」
「見ちゃダメ!」
 慌てた声を、遮る。
 きっと大石は知ってる。これまでの、俺の知らない色んな手塚のカオ。
 だから。
 せめてこの先は――――独占、しちゃってもイイでしょ? 手塚の、俺しか知らないカオ。
 宝箱の中のキラキラした硝子玉みたいに、誰にも見せないで大事にしまっておきたい。宝石みたいにキレイなキミを。
 そう、こんなカオは、俺以外のひとには見せちゃダメ、にゃんだから。

 

「………英二、離れたほうが良くないか?」
「ほにゃ?」
 俺に目隠しされたまま、大石が言う。何言ってんだ?と思って大石の顔を覗き込もうとしたら。
 その向こうに、こっちを睨んでる手塚。ええっ? にゃんで??
 俺がポカンとしてるうちに、手塚は書き終わった部誌を勢いよく閉じて、シャーペンをしまったペンケースをラケットバッグに突っ込んで、立ち上がった。それから、
「大石、戸締まりよろしく」
 そんだけ言って、すたすた歩いて行ってしまった。
 バタン、と閉まったドアの音で我に返る。
「にゃ、にゃんでぇ〜?」
 めちゃめちゃ情けない声でそう呟いたら、大石が溜め息をついて、
「だから言っただろ。ホラ、手離して」
「おーいしぃ〜」
「………今お前、どんな体勢か気付いてる?」
 ワケ判んないっ、と名前を呼んだら、また溜め息をつかれて。
 呆れた声で言われて、やっと今の状態に気付く。
 後ろから大石の目を手で隠してる。ちょーど、背中から抱きつくよーなカッコウで。
 俺は弾かれたみたいにガバッと大石から離れた。そして。
「わぁんっ! おーいしのばかぁ―――!!」
 手塚待ってぇ!と喚きながら、バッグを肩に引っ掛けて部室を飛び出した。

 残された大石が、
「俺の所為なのか……?」
 とポソッと呟いてたとかは、こん時の俺には全くどーでもいいことだった。

 

 

 



13579HITオメデトウございます、周防誠さま。
いまいちリクエストがクリアできてるか不安…(汗)
基本的、手塚の方がヤキモチ妬きさんなので、こんなんになりました(死)
拙い(と言っていいものかも判らん…)お話ですが、
周防さまに捧げマス。
少しでも気に入って頂けるといいのですが。
リクエスト、ありがとうございました…♥


 

 

モドル